第97話 赤

深夜。


「うわぁ〜〜〜ん・・・」


遠くから子どもの泣き声が聞こえてきて目が覚めたM子さん


最初、ネコ?と思いながらウトウト布団にくるまっていたのだが


どうもそうじゃない、何度聞いても小さな女の子?の泣き声だ


こんな夜中に一体どうしたんだろう?


枕元で充電中の携帯電話を手に取る


時刻は午前3時を少し回ったあたりだ


「うわぁ〜〜〜ん・・・うわぁ〜〜〜ん・・・」


この寝室の右手・・・ここは4階だが、その下の通りを段々と近付いてくる


「ちょっとあなた?あなた?起きてくださいよ?」


隣の旦那に声を掛けるが、グーグー寝入ったまま起きそうにない


仕方ないわ・・・


M子さんは寝室を抜け出し、隣のリビングへと向かう


ガラス窓を開け、静かにベランダに出る


「うわぁ〜〜〜〜〜ん・・・・うわぁ〜〜〜〜〜ん・・・・」


ほぼ真下ではっきりと、子どもの泣き声が聞こえる


M子さんは恐る恐るベランダから顔を出し、下を覗いてみた


!!!!!!!!


心臓が、今まさに口から飛び出るかもと思うくらいゾッとした


赤い浴衣のようなものを着た4〜5歳くらいの女の子が歩いている


いや、女の子かも男の子かも不明だ

 

よく時代劇に出てくる、まだ髪の結えない幼い若君のようなイメージ


その子が両手で目を擦りながら、ゆっくり右から左に歩いていく


歩くというよりも、台車に乗った精巧なからくり人形が引かれていく、というのか・・・


いや、M子さんがゾッとしたのは子のほうではない


その後ろを白装束の、侍女のような女性が10人ほど連れ立って歩いているのだ


その侍女が入れ替わり立ち替わり


「大丈夫、大丈夫」慰めるかのように泣く子の頭や肩に触れる


「うわぁ〜〜〜〜〜ん・・・・」


思わずM子さんは周囲を見まわした


自分と同じように、誰かあの不気味な行列を見ていないのだろうか


ところが近隣のマンションや戸建てはひっそりと寝静まっており


子どもの泣き声以外、何一つ音がしない


M子さんは携帯電話を取りに戻ろうか迷ったのだが


あれをカシャと写そうものなら、その音だけで行列に気付かれてしまうだろう


なので息を潜め、ただただ行列を見送るしかなかった


いま私が見ているあれは、あまりにもはっきり見え過ぎて、いわゆる「霊」とは違う気がする


「百鬼夜行」などの、妖怪の類いではなかろうか


この瞬間私は、とてつもなく貴重なものに遭遇しているのかも知れない・・・


「うわぁ〜〜〜ん・・・・」


泣く子を先頭にした行列が見えなくなるまで凝視していたM子さんだったが


そのうち泣き声も聞こえなくなり、ようやく体の緊張を解いた


布団に戻り、携帯電話で調べてみたが、似たような事例は出てこない


結局そのまま空が白むまで眠ることが出来なかった


AM6時


朝食の準備をしていると旦那が起きてきた


M子さん「お早う!ちょっと聞いてあのね!夜中にね!」


旦那「いや〜昨日、凄く変な夢を見た」


「変な夢?」


「うん、村人が鬼を追っかけてんだよ真っ赤な鬼を。その鬼の背中、至る所ぱっくり切れて血がダラダラ流れてるの。俺も村人の1人なんだけど、皆んな手に鎌や包丁持って赤鬼追い回してんのよ。俺も一回、切りつけた。ザクッて感覚がまだリアルに手に残ってる」


「赤い・・・その鬼、どうなったの?」


「うん、それがなぁ。河原まで追い込んで逃げ場無くなった鬼を寄ってたかって切りつけてたんだよ。そうしたら川の向こうからおっきな鉄の船が現れて。そこから大量の鬼が降りてきて。村人全員、食べられた。俺も食べられながら目が覚めた」


何となくM子さんは、自分の話をしないことにした。

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