第93話 喪失
よくジムで顔を合わせるKさん
趣味でボディビルのコンテストにも出ているそうで、週に1〜2回は日サロで焼いているという
先日ジムで一緒になった際、上がるタイミングが同じになり、ジム近くのスタバにでも行きますかと誘われ、同行することになった
「Tさん、気味の悪い話を集めてるって言ってたでしょ?是非、聞いてもらいたい話があって」
Kさんは昨年の正月明け2日、無人営業となっている日サロを訪れた
会員はカードをかざせば入店できるシステムだ
店内には誰もおらず、どのマシーンにもグリーンランプ(未使用)が付いている
目当てのマシーン番号の投入口に500円硬貨を数枚入れるとランプが赤に変わる
3分後、マシーンが自動的に稼働するしくみだ
番号のついた個室に入り、鍵を掛け、素っ裸になると体にオイルを塗る
マシーンは横置き型で、右側に蝶番がある
寝転んだあと左手で、跳ね上がっている上蓋を閉める
閉めると言っても上部と下部の間には5センチほどの隙間がある
かなり熱くなるため、空気の循環が必要なのだ
程なくして紫外線ランプが点灯し、頭からつま先まで青白い光に包まれる
40分間の予定だ、カウンターが動き始める・・・
照射が始まってから数分経っただろうか
不意に右胸にトン、と小さな何かが触れ、それが左腕を掠(かす)めてマシンから飛び出していった
"うわうわうわっ?!"
驚いて左に顔を向けた一瞬、茶色の物体が見切れた
ネズミ?!
いや、10センチほどの巨大ゴキブリか?!
まさか日焼け中に体を何かが這うなんて、思いもしない
慌ててマシンの蓋を跳ね上げ、左手のスペースをキョロキョロ見渡す
が、それはもういないようだ
個室とはいえ上部は天井から60センチほど空いているから、侵入しようと思えば可能だ
何だったんだ今のは・・・
Kさんは頭の整理が付かなかったが、照射のカウントは進んでいるため、再び体を横たえマシンを閉じた
あれがまた、入ってくるかも知れない・・・身を硬くしながら焼きを再開する
緊張しながら時間が過ぎ、カウンターを見ると開始から22分経っていた
あれが何だか分からないが、さすがに向こうも驚いて、もう侵入してこないかな・・・
そう気を緩めた瞬間、足先に何かが触れた
と同時に、一気に太腿、腹、胸、顔と"それ"が駆け上がってきた
"うわうわうわうわ!!"
それを振り払おうと体を激しく揺すったため、膝が上部ガラスにガン!と当たる
それは頭上を抜け、一瞬にしてマシンの外に出ていったが
体の下から上へと駆け抜ける瞬間、Kさんの目が物体を捉えた
羽ばたいてた?!
鳥だ!小鳥だ!!
バン!と蓋を跳ね上げ見上げた部屋の隙間を、それが飛び越えて行くところだった
やっぱり鳥だ、ありゃスズメだ
正体がわかりKさんは思わず苦笑いする
年末年始、誰がが入る際に紛れ込んだのだろうか?
だとしたら食べ物も飲み水もなく、腹を空かせているかも知れんな・・・
俺が出る時、何とか外に出してやれたら・・・
落ち着いたKさんは再びマシンを閉じる
それにしても鳥が紛れ込むなんて初めてだな・・・笑
あと10分か・・・
うまく外に出せれば良いのだが・・・
そのとき右手の隙間から微かな羽音が聞こえ
三たび侵入してきたあれがKさんの腹部にチョン、と乗った
えっ、また来た?!
だが何故か乗ったまま飛び去ろうとしない"それ"を優しく右手で掴むと、全く暴れない
掴んだそれを顔の前まで持ってきた瞬間
「うわうわうわうわあっ!!!!」
思わずKさんはそれを投げ捨てマシンを飛び出る
投げ捨てた"それ"は右奥に落ちてしまった
最初からだったのか
飛んでいる途中でそうなったのか
「体はスズメですが、頭が無かったんです」
右手を見るが血はついていない
Kさんは慌ててタオルで手を拭き、急いで服を着ると店を飛び出した
「乗ってきた時に動かなかったのは、死んでいたからなのか・・・投げ捨てちゃったから分からないんですけどね・・・」
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