第91話 変面

「最近、顔色悪くない?」


自分ではいつもと変わらないのに、出勤するとやたらそう言われる


「えっ、そうですか?」


久美さん(仮名・25)自身はすこぶる元気なつもりだ


ここ10日ほどだ、職場の同僚や友人から顔色のことを言われるようになったのは。


なぜそう見えるのかを聞いても


「何となく元気なさそう」

「何となく落ち込んでそう」

「何となく表情がない」


そんな曖昧な印象ばかりだ


自分では特に凹んでもないし、いたって普段通りなのだ


いつもメイクは軽いし大きく変えてもいない


体調が悪いわけではないから病院に行くまでもない


食事も普通に摂っているし、体重に変動があるわけでもない


何だか気味が悪いので、身内の感想も聞いてみようと休みの日に実家に寄ってみた


玄関で出迎えてくれた母親が開口一番


「あれ?美弥ちゃん??・・・あっ、久美か」


美弥ちゃんは母親の妹の娘さんで、久美さんの一つ下の従姉妹だ


「えーっ?確かに似てるけど間違うー?我が娘をー?!笑」


夕方になり、実家暮らしの学生の妹(20)が帰ってきた


「あっ、お帰りネーネー戻って・・・って誰?みや姉?!」


なんと妹にも間違えられた


あらためて母と妹に、最近周囲から顔色が悪いと言われている話をした


「母さんとルミにも間違えられるし・・・私の顔、そんなに変かな?」


母「変、っていうのじゃなくて・・・顔が変わった笑」


妹「うん、なんか綺麗になった♪」


「いやいやそういうのいいから。そういや美弥ちゃんって元気なのかな?」


東京のホテルで働いている美弥ちゃんは、前年の旧正月に帰省してきた時に会ったっきりだ


母「うん、なんだか仕事、忙しいらしいよー。このまえチーフ?班長?になったって聞いたよ」


「えっ凄いなー」


「このお正月も忙しくて戻れなかったんだってさー」


ふと思いついた久美さん、その日の夕方に実家から自転車で5分の美弥ちゃんの家に向かった


インターホンを押し、カメラに顔を近付ける


『はい・・・あっ?!』


バタバタバタバタと家の中を走る音がして玄関が開き、おばちゃんが出てくる


「美弥!じゃあさっきの電話は、空港から??」


「えっ?」


「ほら入って!どう?大丈夫なの?!」


「あの、わたし久美だよ?」


「はっ?えっ?!」


どうやら1時間ほど前におばちゃんは、泣いている美弥ちゃんを電話口で慰めたところだったらしい


「そのあとタイミング良くあなただから。そりゃ間違え・・・こんなにそっくりだったっけ?」


美弥ちゃんは後輩の指導が上手くいかず、先輩からも厳しいことを言われ続け、かなり病んでいるらしい


「どうにも立ち行かなくなったらいつでも帰っておいで、とは言って電話を切ったんだけどさー」


「おばさん、美弥ちゃんの家の電話番号教えてくれる?」


電話を掛けると、久しぶりの従姉妹からの電話を美弥ちゃんは大層喜んだ


それから数ヶ月過ぎた


美弥ちゃんも何とか持ち直し、元気にやっているようだ


ところが最近、久美さんには新たな悩みができた


「怒ってない?」

「オジサンみたいな顔してる笑」

「えっ・・・誰??」


なに言ってるんだか。

私でしょ。


鏡の顔はなんだか・・・違うけど。


※事務のR嬢のお友達の顔が、日に日に変わっているそうです。

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