第79話 空白

知り合いの警官(♯29 ジェーン・ドゥ)

「あまり詳しくは言えないが、こんな事があった」


サラリーマンのA部長(51)が朝、ふと目が覚めると


目覚ましで起きた奥様のB子さん(50)が寝室を出るところだ


時刻はAM5時半


そのうち扉の向こうから、朝ごはんの支度や洗濯など、微かに生活音が聞こえてくる


Aさん自身は6時半に起きるため、再び眠りにつく


アラームが鳴り、定刻に目覚めると、Aさんは布団をたたんで寝室を出る


トイレで用を足し、洗顔のあと、台所に向かう


「おはよう」


ベランダで洗濯でも干しているのか、B子さんは見当たらない


いや、洗濯機からあげた洗濯物が、カゴに突っこんで放置されたままだ


ゴミ捨てにでも行ったかな・・・


テーブルに座り、携帯を見ながら10分経ったがB子さんは姿を現さない


おかしいなぁ・・・


Aさんは立ち上がり、B子さんの名を呼びながら部屋を見てまわる


が、どこにも居ない


玄関に向かう


普段、お互いの靴が6足ほど無造作に並んでいるから、B子さんが外出したのかどうか今イチわからない


つっかけを履き、玄関を出てみたが庭には居ない


門扉まで行き、表の道路を見渡すが見当たらない


流石に心配になってきたAさんは、B子さんの携帯に電話をかける


だが電源が入っていない


再度家に戻るが、家の中に携帯は放置されていないようだ


メールも送ってみたが反応はない


どこに行ったんだよ全く・・・


割ろうとした卵がキッチンに置かれたままだし


朝のルーティンを、やりかけてフッと消えた感じだ


ご近所の急な呼び出しか何かで、外出したまま長引いて帰れないのかも知れない


不安を感じながらもAさんは服を着替え、朝ごはんを取らぬまま出勤した


・・・これが2004年のことで、そのままB子さんは行方不明となった


当時他県で一人暮らしをしていた大学生の娘にも警察の事情聴取が行われたが


娘にも母親の失踪原因に全く心当たりがなく、家族間に不和などない、ごく普通の幸せな家庭だったという


そして19年が過ぎた2023年5月、警察からAさんに連絡が入った


B子さんが、遠く離れた土地で偽造公文書行使罪で逮捕されたという


偽造免許証を使用したらしい


B子さんは名前を変え、その土地で一人暮らしをしていたそうだ


生活はそれなりの水準だったようで、何を生業として収入を得ていたのか調査中だという


Aさんと娘さんはB子さんと対面したが


B「私から何一つお話しすることはない。私のことは忘れてほしい」


顔に面影は残しつつも、以前のB子さんとは全く違う別人のように、Aさんと娘さんは感じたという


前出の警官

「犯罪が絡むかどうか、未だ調査中だけど、そもそも今さら偽造免許証の使用で通報されるような、そんなヘマをするかな?とね。現時点ではB子さん、この19年間のことを一切話す気がないようだ」


人の行動には衝動的・突発的な始まりも多いというが。

なにか計画的な絵図があったのだろうか。

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