第78話 縄張り争い

建設会社社長のCさんが現場から帰宅途中


19時前後のことらしいが


田舎道の真ん中で、産まれたての小鹿のようにプルプルヨタヨタと佇む獣を発見


車にでも轢かれたかと、降りて見に行くと


果たしてこれは犬なのかヤギなのか猪なのか、見たことのない芝犬くらいの動物だ


黒い毛がべっとり体に張り付いているから、血が流れて乾いた跡かも知れない


このまま道の真ん中にいさせるのもどうかと思い、その獣を抱えて道路脇、草むらの奥まで運んでいく


何かと争ったのかもしれない・・・どうやら目もやられているようで、全く開かない


弱々しく口を半開きにしたまま小刻みに震えるだけだ


これはもう、可哀想だが長くはもたないだろう


ごめん許してくれよ・・・手を合わせながらその場を立ち去った


翌朝


あの獣のことが気になり、出勤前に昨日の田舎道に寄り道してみた


すると遠目に


昨日の場所辺りで、烏の大群が上空を旋回しているのが見える


それも数羽が草むらに向けて急降下して突っ込み


代わりに数羽が飛び立つ、みたいなことを繰り返している


Cさんは瞬時に、あれは昨夜の獣の亡骸を食べに、烏どもが群がっているのだと思った


仕方のないこととはいえ、あの場所に放置したのは自分なので


車を停め、後部トランクから釣竿を出すと


それを振り回しながら草むらに入っていく


烏を威嚇しながら数歩入ったところで


「何だこれは?」


直径3メートルほどの範囲の草むらが薙ぎ倒され


さながらナスカの地上絵のように綺麗な円が出来ている


そしてそこに、20体はあろうか、烏の死骸が転がっている


それぞれが体を裂かれ内臓をぶちまけ、円の中が赤黒く染まっている


なんてひどい・・・顔をしかめながら昨日の獣を探すが


血と臓物の中には、それらしきものはない


ということは単に烏同士の争い?・・・いや、そうだとしてもこれほど綺麗に草が薙ぎ倒されるだろうか


いうなれば象くらいの生き物が足踏みしない限り、こんなプレス状態にはできないだろう・・・


ふと我に返り、気味悪くなったCさんはその場を離れた


Cさんが離れると同時に、また烏の急降下が背後で始まる


驚いて振り向くCさんの目に、急降下した烏が地面まであと2メートルというところで


何かにバァン!と叩き落とされる瞬間が見えた


いる!

目に見えない何かが、まだあの円にいる!!


烏の大群は何かと争っている最中だったのか?

とてつもなく大きな何かと?


見えないとはいえ俺は、よくあんな近くまで寄って襲われなかったな・・・


身震いしながら車に乗り込み、発進させた


このことを従業員に話したところ、現場を見てみたいという若手が数人、仕事終わりに付いてきた


やめておけばとも思ったが、Cさんは自分の幻覚ではないことを証明したかった


19時、車4台がその場所に到着。


「この奥だよ」Cさんは若手を引き連れ草むらを入っていく


あった。幻覚ではない、踏みつけられたような大きな円が。


「・・・烏の死骸、ないですね」

「血とかも全く落ちてないですけど」


そこにはただの円だけが残っていた

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