第77話 引き返す

Dさんという女性(43)が久々に長期休暇を取り、実家に戻った


「ただいまー」


「おっ、おかえりー」


玄関で出迎えてくれた父は肌艶が良さそうだ


少し若返ったかも知れない


父「どう、少しはゆっくりできるのか?」


D「うん。お母さんは?」


「いるよ台所。お前の大好きなおでん、作ってるよ」


「やった~!そっかーじゃあ今のうちにミミの散歩、行ってこようかなー」


ミミとは実家で飼われている豆柴だ


玄関を上がろうとすると、ちょうど宅急便屋が来て荷物が届いた


かなり大きな長めの箱だ


父「誰からだ?・・・ん?お前からじゃないか笑」


「えっ?」


差出人がDさんになっている


「えっ私、送ってないよ?」


「何をくれたんだ?」父はDさんの話も聞かず箱を開けている


「なんだこれ?」


中から巻物が出てきた


父がビニール梱包を破り、立ち上がってバラバラバラと伸ばしてみる


【 老 少 不 定 】


そう、縦に筆で書かれている


D「なにこれ・・・」


父「お前じゃないなら、誰からだ?」


それはそれとして、まだ玄関すら上がっていなかったDさんは、家に上がると台所の母に挨拶し


昔からそのままにされている自分の部屋に荷物を置き


裏庭にいるミミを連れて、散歩に出かけた


20分ほど掛けてご近所をぐるりと回り、戻ってくると、ちょうど夕飯の支度が整っているという


手を洗い、台所に向かう


テーブル中央に、おいしそうなアツアツの沖縄おでんがどん、と置かれている


D「わぁ~おいしそう!」


母「じゃあ食べましょうか」


父「いただきます」


D「いただきまーす!」


鍋からおでんをよそったDさんは


味がしみ込んでほろほろのテビチ(豚足)を箸でつかむと、一気にかぶりつく


・・・えっ?


もうひとかぶりして咀嚼する


えっなにこれ・・・


全く味がしない。

いや、匂いもない。


父と母を交互に見る


そっかもう、いないんだった


Dさんは静かに箸を置く


「お母さん、これ、死者の食べ物だね?」


はっ!とした表情の母


「おまえはいきなり、何を言ってる?!」叫ぶ父


Dさんはスッと立ち上がり玄関に向かう


父「どこに行く!D!すわりなさい!!」


背中で叫ぶ父を無視して、Dさんは靴を履くと玄関の扉を開けた




「・・・大丈夫?!大丈夫ですか!!」


「意識戻りましたぁ!!」


仕事帰りに歩道を歩いていたDさんは交通事故に巻き込まれ、救急車で搬送される途中だった。

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