第74話 レアケース

デパートの、とあるケーキ屋さん


「ご自宅用ですか?」


お爺さん「えっ?あっ、えーっ、皿とか、フォークは、はい、あります」


「お持ち歩きのお時間はどのくらい・・・」


「あっ、えーと、このくらい・・・」


腰の高さで握る格好のお爺さん


「いえあの笑 お家に着かれるまでのお時間は・・・」


「ああ!くるまくるま笑」


「保冷剤はどうなさいますか?」


「えっ、なにレーザー?」


「いえ、保冷剤は・・・笑」


「ホレーザー?冷蔵庫の?大きいのかな?」


「いえ、でしたら少しだけ入れておきますね」


ケーキが箱に詰められ、紙袋がお爺さんに渡される


「はいありがとう。えっと〜ホレーザーは・・・」


「箱に入れてます笑」


「あっ箱に入ってるの?ありがとう〜」


・・・お爺さんを見送っていた店員女性のAさんが、自分を呼ぶ声でふと我に返り振り向くと、次のお客様の若い女性が待っている


その女性の清算が済んだタイミングで、裏手の厨房からパティシエの女性が補充のケーキを並べに出てきた


Aさんはパティシエの女性に、先程の面白いお爺さんの話をした


「えっそんなことがあったんだ笑 ちなみに何をお買い上げいただいたの?」


Aさんはモンブランとシブーストだと答える


「えっ?さっき確認した時から減ってないよ?」


えっ?とAさんもショーケースを見る


あれ?確かに数が変わってない?違うケーキだったかしら?いやそんなわけ・・・


「おっかしいなぁ・・・」


自分の打ったレジの伝票綴りを見ると、お爺さんの前の、親子連れの伝票の次に、つい先程のお姉さんの伝票が連なっている


えっ?

あれっ?


結局あのお爺さんがお買い上げたという形跡がなく


その日のレジの売り上げも合っていた


そして定時になり帰る頃には、Aさん自身が


"本当に私、お爺さんなんて接客したのかしら?"


記憶が曖昧になってきた


それから半月後。


シフトが変わり、系列の他店に赴いていた先輩女性のBさんが戻ってきた


「どうこっちは?順調だった?」


そんな雑談をする中、ふと忘れかけていたあのお爺さんのことを思い出した


「そういえば私、勤務中に夢を見てたのかも知れないのですが・・・」


自虐的に苦笑いしながらBさんに話してみた


「ちょっと待って。モンブランとシブーストだよね?・・・わたしそのお爺さん、知ってるよ?」


至極真面目な顔をして言うBさん


まさかのBさんの反応・・・Aさんは更に詳しく話を聞いてみた


「いつも奥さんとケーキを買いにこられてたんだけど、奥さんが御病気されて、1度お一人で来られたことがあったの。奥さんがモンブラン、ご自分がシブースト好きで、これから病院に持って行きます、ホントにここのケーキ美味しいよねぇ〜って。でも、それから来られなくなったのよ。それがもう半年?もっと前かな?あなたが入ってくる前だから、結構前よ。」


「え〜っそんなことあります?笑 たまたまケーキのチョイスが同じだった別の方じゃないですかぁ?」


「だって保冷剤のくだり、私もやったもの。覚えてるのよ。冷蔵庫にあるのはフリーザーか、って」


「待ってください。じゃああの日私は本当に接客したってことですか?」


「・・・でも売上伝票には無かったのよね?」


「そんなこと・・・あります?」


Bさんは「その日の売り場前の監視カメラ見せてもらえば?」と提案したが


Aさんは「見るのが怖い」と乗ってこなかったという

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