第67話 白い犬

事務のM嬢の、夜時代の同僚で今も友達のFさん(32才・女性)


今はお子さんもいて専業主婦をされている


大雨の日にFさんが、普段は自転車で通っているスーパーに車で出掛けた


午後2時


更に雨足の強くなる中、買い物を終え、住宅街の生活道路まで戻ってきた


2区画ほど入った右手角地が更地になっていて


今はただ雑草の生い茂る空き地だが、2年ほど前まで2階建ての家があったような記憶がある


その空き地と道路との境目に側溝があって


その側溝の道路側の縁に、何やら白いかたまりがあるのに気付いた


大きさにすると40センチくらいの丸っこいものが、ビチャビチャと雨に打たれている


何気なくその白い塊を横目に見ながら、Fさんは車で通り過ぎる


通り過ぎた後に右手サイドミラーをチラッと見た瞬間


その白いかたまりがノソッと首をもたげた


えっ!犬?!


ブレーキをかけ、車を停止させる


いま確かに一瞬、テリアのような犬種の顔が見えた


ふたたびサイドミラーに目を向けるが


激しさを増す雨脚に打たれたミラーの視界が、一気に悪くなる


それでもミラー越しに目を凝らしてみたが、その白い塊はもう、動かない


雨ざらしの犬かと思ったけど・・・気のせい??


大雨の中、車を降りてまで確認する気にはなれず


"うん、あれは犬じゃない"


そう思い込むことにして再び車を発信させた


翌日。


打って変わって雲ひとつない晴天になった


朝から気温が上がり続け、まだ午前11時だが外は蒸し風呂だ


だからといって買い物に行かなければ晩御飯の用意もできない


午前11時半、いつものように電動自転車にまたがり、スーパーに向かった


家を出発して7~8分後、昨日の空き地が近付いてきた


昨日の逆なので空き地は左手だ・・・あれっ?


側溝脇に、昨日の白い塊がある


炎天下で干からびて、使い古された雑巾のようになっている


モップの先か何かだろうか・・・Fさんはどうしても確かめたくなり


空き地横で自転車を降り、立てかけたあと


その干からびて薄汚れた白い塊に近付いてみた


やっぱり何かの毛だ・・・


Fさんはあたりをキョロキョロする


空き地の雑草で、長めの割り箸くらいの木の棒を2本、見つけた


よし、これで・・・


木の棒を拾うとその白い毛の下に差し込み、恐る恐る裏返してみた


干からびていたからか意外に軽く、その塊はあっさりひっくり返る


裏も、ただの薄汚れた白い毛の塊だった


だがファーなどではない


もっと不定形な、なんというか削がれた毛皮のような・・・


はっとしてFさんは飛び退く


まさかこれ、"そういう"毛なのだろうか


もう一度近付き、裏返った毛の塊を2本の木の先で拡げてみる


が、削がれたような形跡はなく、本当にただの毛の塊だった


その毛が何の毛なのか分からないが、昨日、動いた気もしたし・・・


ただ側溝脇で干からびているのも何だか物悲しい気がして


Fさんは、その毛の塊を木で挟みながら、雑草の生い茂る空き地の中へと投げ込んだ


「何してるんですか?」


不意に声を掛けられ、Fさんはびっくりして「ひゃっ」と声を上げる


振り向くとそこには初老の男性


「いえあの、犬かなと思って確認したものが、ただの犬の毛みたいで・・・すみません、投げ込んじゃいました」Fさんは正直に言う


「それ、白い毛のかたまり?」


「あっそうですそうです」


「また出たの?」


「また?」


「その空き地、よ~く見て」


ん?

Fさんは空き地を振り返る


「あ・・・あっ?・・・ああっ?!」


雑草に紛れて気付かなかったが、敷地の至るところに薄汚れた白い毛のかたまりが落ちている


尋常ではない量だ


全部掻き集めたらゴミ袋45Lで・・・さて入り切るだろうか?


「あれ、何ですか?」


「う~ん分からんのよ。何かの毛なんだけどさ。雨上がりに増えていくんよね。地面から出てくるのかなぁ・・・埋葬してた犬が出てきたんかなぁ?でも小型犬だったし、もう2年も前だし」


「あの・・・その犬って種類は何ですか?」


「あ~っと。テリアですよ。ウエスティってやつだったかな、白の」

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