第66話 何か出来るわけではない。分かってる。

もう10年前になる


7つ下の妹分から、結婚するので参列して欲しい、主賓挨拶もお願いしますと連絡があった


彼女は当時、神戸の某企業の事務職だったが、合コンで知り合った男性と半年お付き合いしていたそうだ


相手男性は営業マンとしか聞いていなかったが、式の打合せで連絡を貰ったときに詳細を聞いてみた


年は2つ上、相手は再婚。中2の息子さんがいるが、その息子さんは、その男性の母親の養子になっているという


なんか複雑だな・・・


前の奥さんのことを聞いてみたら、なんと火事で焼死されたとのこと


いよいよもって複雑だぞ・・・


仕事は、某放送協会の受信料の委託回収だという


営業マンではなかったのか?


まあ彼女が決めたことだし、それ以上は何も聞かず、式の当日を迎えた


新郎・新婦ともに50人、計100名の式ですと聞いていたのだが


着席すると、我々新婦側は確かに50名以上、いや70名はいるが


新郎側は20名を切っている


更には、新婦側は御両親や親戚一同、年配の方々が30名ほど参加しているのに対し


新郎側18名はどう見ても、新郎と同世代の男性のみ


ちなみにバランスを取るために、新婦側の友人席が新郎側に寄せられるという、なんともいびつな配置だ


どういうこと?


違和感を覚えたまま式は進行し、俺もそれなりに来賓挨拶をすませた


新郎の男性は当日初めて会ったのだが


「妹分なので、この子(新婦)をどうか宜しく頼みます」とビールを注いでも


目も合わせずオドオドしている


何だこいつ・・・大丈夫なのか?


式の後の2次会を新婦の友達たちが段取りしたのだが、肝心の新郎新婦が居らず、参加したのも新婦側のみ


開始から1時間遅れて新婦だけが"戻って"きたのだが、新郎とその友人達はどうしたのかと聞くと


今まで別の所で飲んでいて、皆、疲れて帰っていったという


式から2次会まで腑に落ちない事だらけで、それが俺の顔に、あからさまに出ていたのだろう


彼女が俺を、少し離れた席に連れて行く


「Tさん、今日は色々すみませんでした。怒ってらっしゃいますか?」


「怒ってなんかないよ。ただ・・・あちら(新郎)の親とか親戚は?」


言いにくそうにしながら彼女が説明してくれた


新郎が再婚したい旨を母親に伝えたところ


「お前がまた結婚式を挙げるなどと、親戚にも御近所にも恥ずかしくて言えない。するなら勝手にやって欲しい」


そう言われたとのこと


結果、向こうの親戚は誰1人、彼が再婚することを知らないのだという


だから人数合わせで、かき集めた友人だけが参列したのか・・・


そして式の翌日、更に憤慨することが起きた


昼過ぎに彼女から電話が入る


「昨日は有難うございました!今から新婚旅行行ってきます!」


「おっ、気を付けてな!仲良く行っといで!」


「あっ・・・あの、色々ありまして、私1人で行ってきます」


「は?」


「あっもう時間無いんで、また戻ったら・・・」


そう言って電話は切れた


後日、聞いたところ


「新婚旅行で数日居ないってのがバレたら、母親や近所から何を言われるか分かったもんじゃないから俺は残る。悪いけど1人で楽しんできて」


そうダンナから言われたとのこと


「なんでそんな奴と結婚なんかしたんや!すぐ別れてしまえ!!」


怒りで、思うより先に言葉が出てしまった


更に話は続く


その2週間後、彼女からまた電話が掛かってきた


「あのう・・・ちょっと相談があるんですけど」


「なに?どうした?」


「ダンナの会社がN◯Kから業務委託を切られまして・・・ウチのダンナ、派遣切りに遭っちゃって」


えっ?!

正社員じゃなかったの?!


「で、いまダンナ無職なんですけど、なんかお友達と『使用済みカード回収して売って・・・』とか電話してるのが聞こえたんです。それってヤバいですよね?笑」


笑えん。

この子(新婦)にも大いに問題がある。


「なあ、もう一度言うぞ。別れろ」


「いや、でも、あの・・・多分デキちゃってるんです・・・」



そして現在。


ダンナはその後、板金工だとか製造業だとかに就いては辞め・就いては辞め


今はネット販売のおこぼれみたいな仕事?で、ほぼ収入無くヒモ状態らしい


1人息子は小学4年生になったが


ダンナは、成人した前妻の息子と飲みに行くといっては、週末出掛けて帰ってこないことも屡々(しばしば)あるそうだ


「ダンナ、家にいても一日中ネットしてて、実質私のワンオペなんです〜」


たまにそんな呑気なLINEがくるが、本人に全く別れる気が無いのだから、救いようがない


そして昨夜


神戸の、とある老舗バーが周年を迎えるのだが、俺が寄れないことを、お詫びがてらマスターに電話した


昔、その彼女も含め、よく飲みに行った店だ


『Tくん聞いてる?◯◯ちゃんのこと』


「えっ、何かありましたか?」


『あぁやっぱり聞いてないか〜、先月、自分で自分の火を消しちゃったよ』


突然の悲報。


だがマスターによると彼女が自殺するとは考えにくいという


『あの子の会社、去年大手に吸収合併されたんだけど、その時、社員の持っていた株を親会社が買い取る形になったんだよ。1株10万程度が1株数百万にもなったそうで、あの子も3株持ってたから大金が入ったんだよ。ずっと苦しい家計だったから、天の助けだって喜んでたんだよね』


俺は真っ先に、あの結婚式当日のオドオドした旦那の顔が浮かんだ


『いまTくん旦那の事思い浮かべたろ?我々も皆、そうだよ』


真相は分からない。

息子くんはどうなるのだ?


もしかすると警察が動いているかも知れない


いずれにせよ許さん。

真実が明らかにならずとも、俺は許さん。

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