第65話 消えた灯

さて皆様。


世の中の虐待やDVやストーカーが事件にまで発展してしまい


それをニュースで知るたびに


「周りは気付かなかったのだろうか」


「こうなるまでに防げなかったのだろうか」


そんな感想を持たれたことがあると思う



とあるラウンジがあって、俺が通いだして5年ほど経つ


俺と同じようにフラッと一人で飲みにきている常連さんたちとは互いに仲が良くて


会えば皆、カウンターで盛り上がる


そんな常連客のなかに


Sさん(72・不動産関係の自営業)


Bさん(58・建設会社Aの支店長)


Yさん(50・建設会社Bの部長)


という方がいる


それぞれに店のお気にいりキャスト(女性)がいて


Sさんは、Kちゃん


Bさんは、Mちゃん


Yさんは、店のママ


必ずこの組み合わせで同伴してやってくる



今まではそれほど問題が表面化していなかったというか・・・俺が気付かなかっただけというか



まずSさん。


同伴で店にやってくると、必ず自分とKちゃんだけで奥の個室(団体様カラオケルーム)に入り


Kちゃんを独占していたのだが


奥の個室に団体客が入り、仕方なくカウンターで飲まざるを得ない日が続き


Kちゃんを独占できない憂さ晴らしなのか、他の女の子が自分に付くと「俺のボトルを飲むな」と


セコいことを言い出した


Kちゃんとしては以前からSさん専属のような縛りが嫌で、少しでも離れたかったから


カウンターで他の客に付くことをとても喜んでいた


ある日、そんなKちゃんの解放された笑顔を見て


S「お前にこれだけ注ぎ込んでもヤラせてくれないし、俺は損をした。今までお前にやったものを全部返せ」


そんな理不尽なことを言い出した


おじいちゃん・・・


うるさいからといって他の客のカラオケを途中で止めるなど、素行も悪くなってきたため


Sさんは現在出禁(期限付きらしいが)になっているそうだ



続いてBさん。


この方は典型的な、友達にはなれない部類だ


年齢、性別、社会的地位全ての観点で上から目線の方


自分が偉い、自分が中心だと思っている


特に、酔うと女性に横柄になる


だからお気にいりのMちゃんなど、何度裏で泣いていたことか・・・


で、ある日、見るに見かねたYさんが「いい加減にしろ!!」とキレた


ちなみに


SさんのことにしろBさんのことにしろ、そんな目に余る奴らをなぜ、俺が注意しないのかとお思いでしょう


いや、全く気付かなかったのですよ


というか俺が居るときには何も起こらなかったのです


で、会社が違うとはいえ立場が下で年齢も下のYさんから、いきなり怒鳴られたBさんは


それ以降Yさんを避けるようになり


逆にその腹立たしさの捌け口として、更にMちゃんに傲慢な態度をとりだした


遂に我慢ならなくなったMちゃんは「もう店に来ないでください」とブチ切れ


今現在、Bさんは来なくなって久しいという



Bさんの件で男気を出したYさんであったが


実は一番たちの悪い男だったようだ


本人には、既に破綻している家庭があり


離婚はしていないが嫁・娘の住むマンションには数年帰っていないという


そんなYさん、ママが好きすぎて必ずラストまで店に居て、最後ママをタクシーで送って帰るのだが


どうやら最近、休日に


ママのマンション前に現れては「大事な話があるから降りてきてほしい」と電話を掛け


ストーカーまがいのことを始めたらしい


店でも、ママが他の客の席に付くともう気が気でないらしく


「ほら!そうやって!放ったらかしか俺のこと!」大声を張り上げることもあったという


店にはほぼ毎日(月~水、金・土)来ていて


一介のサラリーマンが生活費を仕送りする傍ら、これだけ金が続くのはおかしい、という噂はあったが


ついに先日


『ママは俺の気持ちをわかろうとしない。俺が今まで通い詰めてきた時間は何だったのか。俺が今まで店に支払った金を全額返してほしい』


道理の通らぬラインをママに送り付けてきたそうだ


返してほしい奴だらけやな・・・


おそらく、借金してまで店に通い詰めていたのではなかろうか


そこはなんとか、ママがうまく収めた(諭した)そうで


「言動や態度、いろいろと迷惑をかけて申し訳ない」


一旦は詫びを入れてきたYさんだったが


ママが昼間、店の掃除に来るのを知っているYさんは


昼休みに会社を抜け出し、ママの店の近くまで来ると


少し離れたビルの陰からママの様子を伺っているのだという


もう、いつ取り返しのつかないことが起こっても不思議ではない



Fちゃん(店の最年長キャスト)「だからママが心配なの。もういっそのこと、SさんやBさんみたいにビシッと出禁にすればいいのよ。でもママ、あの性格だから出来ないよのねぇ・・・」


俺「そんなことになってるの?大人のすることじゃないな・・・どうしたYさん、自制心失ってるのかな?」


F「ところで私もずーっとこうしてTさんと同伴してるけど。なん~にもないよね。誕生日プレゼントくれたこともないし。わたし魅力ない?笑」


それは貴女が過去、休日のお客の家に乗り込み家庭崩壊にまで追い込んだのに


ママが貴女を切ると言い出したら、「お客の秘密、有ること無いこと全部バラす」といってママを脅し


居座っている超問題児だからですよ



まあこれだけ客という客が色恋匂わせでやられるということは


良くも悪くも、ママを含めたキャストが優秀だということでもある・・・のかな?


いずれにしても事件にならないことを祈ろう



それから2週間が過ぎた


いつもなら3日おきくらいの頻度で「いつ来るー?今日来るー?」と


ママや女の子たちからLINEが入ってきたのに、全くアクションがない


まあ忙しいのだろう、今日あたり行ってみるか


その夜、21時に店の入るビルの前に着いたが、看板に灯りがついていない


エレベーターに乗り、店の階まで上がってくると


"諸事情により閉店します

今までご愛顧くださり、ありがとうございました"


張り紙が貼ってあった


そして今現在、誰とも連絡が取れないでいる

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