第60話 悪夢(後編)
いつもアメをくれるおばちゃんがいた
低学年のころは特に疑問も抱かずもらっていた
そのうち、ウチの中にまで上げてもらい、ケーキをご馳走になった子が出てきた
ここにきてようやく母親たちが、そのことを問題視し始めた
見知らぬ人の家に勝手に上がってはいけない
見知らぬ、といっても前からそこに一人で住んいでるおばちゃんだから、皆、知ってはいるだろうに
ある日を境に、誰もおばちゃん家に近寄らなくなった
そのうち誰が言い出したか
「あの人は子どもを手なづけて家の中で怪しい人体実験をしている」
そんな馬鹿な噂が立ちだした
ありもしない噂を流されたおばちゃんが、自治会に文句を言いに行ったという話も聞こえてきたが
そもそもおばちゃんは自治会やご近所のことに非協力的で、それも良く思われない理由の1つのようだった
そうこうしているうちに、おばちゃんが体調を崩して入院した
そしてそのまま、帰ってこなかった
おばちゃん家はその後、どういった経緯があったのか分からないが数年間、放置された
おばちゃんが亡くなったかどうかも分からないのに、おばちゃんの亡霊が出るという噂が流れ
心霊スポットとか言って高校生が夜な夜な侵入しては
ゴミを捨てたり落書きしたり
荒らし放題にしていった
が、ついに業者が入り、「幽霊屋敷」は解体された
それがもう17年前のこと
おばちゃんは体調を崩して入院、ということになっていたが
ある日、自宅に若者が金品強盗目的で侵入し
争った際に倒れて床で頭を打ち、受けた脳のダメージで数年寝たきりになり
最後は誤嚥性の肺炎で亡くなった・・・というのが、ことの真相らしい
噂では、襲った若者は以前おばちゃんの家に出入りしていた近所の男子だったが
おばちゃんはそのことを、一切警察には話さなかった(話せなかった)という
エアフォース所属のカーターとともに、強い力を持つユタの元に伺ったミエコさん(仮称・27)
ユタの先生曰く、スマホに写った日本兵らしき画像の主は
ミエコさんにではなく、ミエコさんの身内に強い恨みを持つ者で、古い怨念だという
いちど浄化されかけたが、何かしらの刺激を受けて、また強くなったらしい
ユタ「貴女が金縛りに掛かりだしたのはいつ頃ですか」
ミエコ「私が10才のころだったと思います」
ユタ「そのころ、なにかご自分の身の回りで起こりましたか?」
流石に10才のころの記憶なんてほぼ無いに等しかったので
後日母親に聞いたところ、冒頭の、近所に住んでいたおばちゃんの話になったのだ
その事を、後に電話でユタに伝えると
「その方、渡嘉敷島のご出身ではないですか?それが分かれば、ほぼ全容が解明できます」
そう言われたので一度電話を切り、再度母親に尋ねてみた
しかしミエコさんの母親にもそこまでは分からず、ご近所のお年寄りに直接聞いてみることにした
最初に伺った家でいきなり答えが聞けた
「そうだよー、◯◯さん、渡嘉敷の人だよー。ミエちゃんどうして知ってるの??」
おばちゃんは、22で渡嘉敷から嫁いで本島にやってきたが
40代で離婚し、子はなく、それ以来1人だったという
それよりも何よりもおばちゃんは
あの太平洋戦争の沖縄戦で、329人もの集団自決のあった渡嘉敷島において、5人兄弟の唯一の生き残りだった
この平和な時代、元気に遊び回る子どもたちをみると、構わずにはおれなかったそうだ
だが大人に対しては、社交的でないその性格が災いして、よくは思われていなかったのだという
この話を聞かせてくれたお年寄りも沖縄戦の生き残りで、おばちゃんとは年が近く、気が合ったそうだ
ミエコさんは、ここまでを改めてユタの先生に伝えた
「そうでしたか。あの画像の方は、その女性のお父様かと思われます。可愛がられていたのでしょう。戦地でお亡くなりになったのよね?娘の死に激しい念を抱かれていたようです。それが薄れかけてきた頃に、貴女のボーイフレンドに引き戻されたみたいね」
「カーターがですか?どうしてですか?」
「自分を殺したのがアメリカ兵だからよ」
・・・ここまでを、カーターは宮里くんに教えてくれたそうだ
俺「よくそんな詳細まで、話してくれたな」
宮「いやそれが。カーターには引っ掛かることがあるらしくて。彼女とはもう会わないかも、と言ってました」
「あ~、自分が呼び戻したなんて言われたから?」
「いや、そうではなくて。その父親の念・・・ユタの話では"ミエコさんの身内に強い恨みがある"わけです。ミエコさんには5才年上の兄がいて、親は縁を切っているそうです。子供の頃から手がつけられず、傷害罪で2度喰らってるとか」
「傷害・・・まさか・・・・けどそれとミエコさんは関係ないのとちゃうんか」
「それが、ミエコさんはその兄を今でもたいそう慕っているらしく。カーターとしては、なぜミエコは1ミリもお兄さんを疑わないのか分からない、と」
今回、多くのことを言い当てたユタの言葉を信じるか信じないか。
真相は闇だが、おばちゃんを思うと俺でさえ心が痛くなった。
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