第58話 暗闇の犬

AM5時10分。


事務所の入るビルに着いたU部長(45・若手取りまとめ)


エレベーターを使わず非常階段から上がってきた部長が、防火扉を開ける


ウチを含め3社入る3階フロアは、真っ暗だ

その日最初の出勤者がカードを通すまで共用部も消灯されている


ひたひたひた。


扉を開けると同時に、暗い共用廊下の先を何かが歩く音がした


"えっ?"


後ろ手でそっと扉を閉める


がふっ!


今度は奥のエレベーター辺りで、何か喉に詰まらせたような音がする


"えっ犬?!"

背筋が凍る


ひたひた。

がふっ!


やはりエレベーター前で何かが歩き回っている


こんな真っ暗で封鎖された空間に、何で犬がいるのだ・・・


事務所の扉にカードキーを挿せば共用廊下の電気は点くが


U部長の脳裏には、バイオハザードに出てくるゾンビ犬が浮かぶ


気付かれて襲われたらどうする?

一旦、非常階段に逃げようか

いや仕事あるから早く来たんだし・・・


警備員は常駐ではない

7時にならなければ来ない


意を決したU部長はカードキーを挿し込む


ピッ!

カチャン


解除されると同時にパッ、パッ、パッと廊下の電気が付いた


・・・・・。


身構えて左手エレベーター側を凝視するが、見える範囲には何もいない


見えないエレベーター前か反対側の非常階段辺りに、潜んでいるのか


足音を忍ばせながらエレベーターに近付いていく


エレベーターを覗き込むが、何もいなかった


ホッとした部長の目線が階表示に向いた瞬間、エレベーターが6階に止まった


えっ?

移動した?!


とても6階まで確認しに行く気にはなれないので、踵を返し事務所に入った


朝7時。1階の守衛室に寄る


不審者がいたかもしれない、6階も確認した方がいい(動物とは言わず)と伝える


それから10日ほど過ぎた


朝、守衛室の前を通り過ぎようとしてU部長は呼び止められる


「あの、先日の6階の件ですけど」


「あっ何か分かりました?」


「いえ、何もありませんでした。それとは別に6階に入られている4社の従業員さんの間で高熱の風邪が流行ってるらしいから、Uさんのところも、いつも以上に予防に留意してください」


「え!コロナじゃないの?」


「皆さんそれを疑って病院で検査を受けたらしいんだけど、インフルエンザじゃないかって」


「このビル流行ってるの?笑」


「それがね、ある事務員さんが教えてくれたんだけど、症状は似てるけど別の熱病の疑いもあるからって更に検査されたみたいで。その結果までは伺ってませんが」


「別ってなに?怖いなぁ〜!笑」


「えっとですね・・・(とメモ帳を開き)Q熱。」


「Q熱?何ですかそれ?」


守衛さんもそれ以上は知らず、出社したU部長はネットで調べてみた


Q熱とは、牛や羊、犬や猫に付くマダニなどの排泄物・死骸を、エアロゾルとして吸い込むことによって発症する「人と動物の感染症」らしい


症状はインフルエンザに似ているが、人から人への感染はなく、よって集団感染もないという


U「つまり6階で、何かが徘徊してたんじゃないか・・・って思いません?」


俺「まてまて怖い怖い・・・ホンマにバイオハザードやないか。このフロア(3階)は大丈夫なんやろか?」


暗闇の犬という話。

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