第57話 アバター

短いメモからエピソードを思い出していると


"多分これ、相当面白かった話やな・・・"


「あり乾杯」の方に載せるつもりで、記憶を辿りながら文字起こししていると


実は真逆の「哀」エピソードだった・・・という場合がある


SNSやコミュニティーで、自分のアバターを作り、登録してらっしゃる方は多いと思う


もう今から18年前の話だ


色んな話題について熱く語る、Barという体を装ったネット上のコミュニティーがあった


そのころはまだ俺にもそれなりに髪があったが、いかつい風体は今とそう変わらなかったので


自分のアバターを、見た目とは真逆のイケメン風に設定した


シュッとしたイケメンにするため、男キャラではなく女性キャラのエディット画面から、超〜格好良く作成した


そのコミュニティーでは当然、男として会話していたのだが


どうやら俺を女性と勘違いしている相手(アバター)もいた


というのは


中性的な顔立ちにウェーブのかかった茶髪ロン毛、というキャラにしたため


見ようによれば、イケメンというより美人なお姉さんにも見えたのだ


「君、何処の人?もし俺と住まいが近いなら一度、会ってみない?」とか


ごつい野武士みたいな剣豪アバターが俺(のアバター)を口説いてきたり。


アホかこいつ。


そいつだけかと思ったら、あと数人そんな勘違いをする奴がいて、勿論無視していた


そんなある日


若い女の子のアバターが、俺に話し掛けてきた


俺の、コミュニティーでの話が面白いですという


「あのう・・・お姉さんはどちらの方ですか?」


うわ、また?


まあでもいいか、男連中から間違われるよりは。


「わたし?神戸よ」


お姉さんと言われ、「よ」とノリで語尾ったのが失敗だった


それ以来その子には、完全に女性キャラとして接する羽目になってしまった


その若い女の子アバター、なんと壱岐島に住む中3の女の子だった


その頃は今と違い、年齢チェックや個人情報の交換など、ユルユルだった頃だ


まさか未成年とは知らず「うわ、これはマズいぞ」と思ったのだが、その子は何かと問題を抱えて切羽詰まっていたようで


学校でいじめられる

友達ができない

親は分かってくれない


切実な悩みを、見ず知らずの俺(見た目と語りはTAMAという名の女性)に、赤裸々に打ち明けてくるのだ


俺も初めは、アドバイスを間違わぬよう、間違わぬようにと対応していたつもりだっだが、そのうち


「中学卒業したら直ぐにこの島を出たい!TAMAさんのところに行きたい!」


そんなことになってしまった


もうこれ以上はダメだ・責任持てないと思い


「ごめんね、実は私『男』なんです」と打ち明けた


そこからピタッと接触が途絶えた


“悪いことをしてしまった・・・”


しかし俺も、ちょうど良い潮時だと思い、そのコミュニティーを抜けた


そのサイトを見ることも避けてから、1年ほど過ぎて


そういえばあのコミュニティー、どうなっただろう・・・今でもあるのかな?


ふと、サイトを開いてみた


すると・・・


「誰かTAMAさんをご存知の方いませんか?以前ここに居た方なんですが・・・」


あの女の子が、1年経った現在も俺を探していた(ll゚д゚)


心が痛くなり、画面を閉じた


相手の事を知りもしないのに、深入りするものではない・・・


ゾッとした話ではない、大いに反省したという、お話でした

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