第45話 The Sixth Sense

第六感・・・視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感以外の感知能力


怖い話や摩訶不思議な話の導入部で


「実は彼(彼女)、人より霊感が強くて・・・」という表現がよく使われるが


そもそも霊感ってなんやねん


ネットで、設問の答えを4択から選んでいくスタイルの「霊感レベル診断」をやってみた


「あなたの霊感レベルは1%です」


『霊感については完全に鈍感なタイプ。目に見える現実のもの以外は何も見えないし、何も聞こえないでしょう』と出た



・・・さて。


2019年11月29日(土)、東京入りした時のこと。


PM3時、連泊する有楽町のホテルでチェックイン手続きをしていると、背後からポーターの女性がやってくる


「お荷物を・・・」と声を掛けてきたその女性、俺の顔をみて"ハッ"となるのがわかった


彼女はそれを飲み込み、「こちらへどうぞ」と俺を促す


エレベーターに乗り込むまで彼女は笑顔のみで言葉を発しなかったが


乗り込むなり


「あの、Tさんですよね?私を憶えてらっしゃらないですか?」


そう、声を掛けてきた


「えっ?」


マジマジと彼女を見る


「ああ!もしかして沖縄の?!」


「そうです!◯◯にいた◯◯です!」


彼女は7年前まで、那覇は牧志にある、とあるステーキハウスの焼き場を担当していたシェフだった


その店は、鉄板のシェフが全員女性というコンセプト


中でも彼女は、当時まだ21歳だったと記憶しているが、食材と調理器具を使ったジャグリング的なパフォーマンスで人気があった


あるとき、来店していた大手ステーキハウスの社長にヘッドハントされ、上京したのだ


当時はよく連れと2人で、この娘を指名で通っていたものだ


「あれまぁこんな所で会うなんて・・・ということは、店は?」


「色々ありまして、1年で辞めたんです」


「そうなんだ・・・元気にしてるの?」


「はい!元気にやっています!」


昔話をしながら俺の宿泊階に着き、部屋の前まで来る


「東京には何日御滞在ですか?」


「今回は短いけど、年明けから東京暮らしするかもよ」


「えっ、そうなんですか?!」


ドアの前で立ち話をしていたが、彼女に全く去る気配がない


というか、心なしか彼女の顔が、笑顔の裏で曇っているような・・・


「どうかした?なんか元気無さそうよ?」


それを聞いた彼女、言おうか言うまいかずっと立ち淀んでいたのだろう、意を決したかのように、こう聞いてきた


「あの、突然で大変失礼なのですが、私が沖縄から出たあと・・・Tさんか◯◯さん、大きな事故とかご病気とか、されましたか?」


◯◯さんとは当時、一緒にステーキハウスに通っていた仲間だ


「それ俺だ。事故も大病も患ったよ。何で知ってるの?誰かから聞いたの?」


「あ、いえ・・・伺ってはないのですが」


「ん?どういうこと?俺見て、いま判ったの?笑」


「あの・・・はい。」


ん?


どういうことだ?


「すみません話が長くなって」


「あ、時間大丈夫なら、ちょっと入って」


彼女を招き入れて部屋に入り、椅子を促す


「もしかして俺に、なんか見えるの?」


「あ、その・・・信じていただけるかどうかなのですが」


そう言って彼女は話を続ける


「最後に(那覇の店に)お越し頂いたときに、Tさんなのか◯◯さんなのか、どちらか判らなかったのですが、匂いがしたのです」


「匂い?」


「はい、匂いというか・・・何かが見えたわけではなく、匂いのようなものがしたのですが、当時は自分の感覚に半信半疑だったので、お話しなかったのですが」


「それは、俺か◯◯に何かが起こるという・・・匂い?」


「はい。情景が見えるとか、そういうのではなくて。人が近付くと鼻から感じて、イメージが頭に浮かぶのです」


「俺の場合、病気とか事故ってのが浮かんだってこと?」


「Tさんなのか◯◯さんなのか、お二人が同じ距離におられたので正直どちらのことなのか、判らなかったのですが」


彼女は上京してからも鉄板の前でシェフをしていたのだが


ある時、冗談めいて客に言った「予感」が当たり、その噂が次第に広まった


自分の潜在能力はうすうす気付いていたので、聞かれれば或る程度正直に「予感」を伝えていたらしいが


そのうちオーナーの知るところとなり「不気味なことをするな、ウチは占いの館じゃない!」と叱責を受け


それが発端で徐々に居辛くなり、辞めたそうだ


「その予知、予言?そんなに当たったの?」


「はい。具体的な内容までは判りませんが、おおよそのディテールは間違ったことはありません」


「もしかして君もユタの家系?」


「あっいえいえ!全く違います。でも、自分の感覚を意識しだしたのは中学の頃です」


あまり部屋に引き止めても変に思われるので、次回改めて東京に来るときに食事しよう、ということになったのだが


彼女が笑顔の裏で一瞬、顔を曇らせた訳は、俺の過去のことではないらしい


俺が年明けから東京暮らしするかも知れないと言ったとき、さらに強く感じたそうだ


「Tさんは東京に来ないほうがいいと思います。まだはっきりと判りませんが、何かに巻き込まれます」


「巻き込まれって・・・事故?」


「・・・はい」


「それが何かは、判らないんやね?」


「はい、現時点そこまでは。なので直ぐに、ということではないと思います」


病気には匂いがあり、匂いで相手の疾患が判るという事象は、実際、科学的にも研究が進んでいる


しかし事故となれば、また別だ


降りかかる災いにも匂いがあり、本当にそれがわかるというなら


もはやこれはシックスセンス


隠された、人類の第6の能力ということになる


次回、彼女に会う時には、更に具体的に、何か分かるかも知れない


・・・そう思っていた2020年は、予想だにしない展開となった


「結局、◯◯ちゃんの予知ってコロナのことじゃなかったの?」


「もしそうなら凄いことですよね・・・でも違います。こんな世界規模のことなんて私には分からないです。私が感じるのは、もっともっと個人的な、狭い範囲のことだけです」


「まだ俺は、その・・・匂うの?何か。」


「来ちゃダメですよ絶対」


2021年の旧盆に、島に帰省した彼女から釘を刺された


どうやら彼女の脳裏にはもう、具体的な災いが浮かんでいるらしい


何も持たず、部屋着の延長のような格好で歩く俺の身に、それは起こるという・・・


ゴールデンウィーク明けに東京に行くことを伝えれば、彼女は何か、予知の続きを聞かせてくれるだろうか。

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