第35話 7つ墓(ななつばか・ななちばーかー)

美栄橋駅近くにある岩山(雑木林)には昔、7つの墓があったと言われている


この岩山近くの店(飴屋)に、飴を買いにくる青白い女性がたびたび現れるようになった


ところがその女性の置いていく一文銭が、翌日には紙銭(カビジン・お盆に使われるあの世の紙幣)に変わってしまうので


不思議に思った店の主人(お婆さん)がある日、女性の後をつけていくと、女性はなんと岩山の墓の1つに入っていく


主人は墓の中を覗いてみて仰天した


亡くなってから数日は経つであろう母親の遺体の側で、赤ん坊がアメをしゃぶっていたという


病の床に伏した臨月の妻を、夫が7つ墓の空墓に放置したことが、のちに判明した


死んでも死に切れない母親は、最後の力を振り絞って子を産んだが


絶命した後も魂は残り、子のために飴を買いに来ていたらしい


・・・そんな逸話の残る場所だ


ちなみにこの赤ん坊は鬼太郎のモデルになったとも言われている



とある店先の軒下にツバメが巣を作った


たまにチーチーとヒナの声はするのだが、親鳥の姿がない


まあそれでも、人間の気付かない時間にでも餌やりしているのだろうと


店主もそれほど気にはしていなかったそうだが


数日後の昼間、コツンという小さな音がして窓の外を見たが、店内からはよく分からない


ん?と思い、外に出てみると


店の前に3人掛けのベンチが置いてあるのだが、朝は確かに何も無かったのに


ベンチの真ん中に、13センチほどの濃紺の鳥の死骸がある


えっ?

その死骸を手に取ってみると、ツバメだ


渡りをするツバメではなく、沖縄に居付きの、琉球ツバメのようだ


しかしこのツバメ、どう見ても死んで数日経ったかのように干からびている


店主は頭上を見上げる


そこにはツバメの巣・・・落ちてきたのか?

ヒナが落ちるのはよくある事だが・・・


店内の倉庫から脚立を持ってきて巣を覗き込もうとしたが、天井に引っ付いて作られているため、見ることができない


しかし・・・かすかにチーチーとヒナの弱々しい声がする


店主は思い切って奥さんに手伝ってもらい、ビニール袋で受けながら巣を剥いでみた


剥がした巣の中には3羽のヒナがいて、うち1羽は息耐えていた


近所でスポイトその他を仕入れてきて残りの2羽に水をやったり、フィンチ用の餌をふやかして少しずつやってみたりした


「で、今こんなよ」


藁を敷いた巣箱でチーチーとなくヒナ2匹を見せてもらった


野鳥は人が飼ってはいけないので、ある程度育てば野外に離すそうだ(というかツバメは9割9分空を飛んで生活しているので、ケージなどでは生きていけないらしい)


「コツンって音はね、たぶん親鳥のマブイ(魂)が、わん(私)に気付かせたんだと思うなぁ」


人も鳥も、子を思う親の心はそれだけ大きいのだと、改めて教えられたように思う

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