第34話 ソフィア

例えば得体の知れない話があったとして


他言しても大丈夫なのか

話すと、他人を巻き込む恐れがあるのか


そこは話し手が、きちんと判断してから伝えなきゃならない


これからお話しする内容は


話自体は問題ないと思われるが、残された"もの"が・・・良くない。



・・・月曜、那覇の馴染みのクラブで飲んでいると、入店して1か月の女の子が俺に付いた


その子は、兵庫は明石の子で、リゾートバイトに来た沖縄で友達が増え、帰りたくなくなった部類


Mちゃんという子だ


この店は沖縄米軍人向けの外人キャストも多く、国籍もバラエティに富んでいる


その彼女たちの殆どが、同じアパートで暮らしている


ところが先週金曜の深夜から、ウクライナ国籍のソフィアが居なくなったという


店を0時半に出て、仲間たちと一緒にアパートに戻ったまでは足取りが掴めている


翌土曜の朝10時に、隣部屋に住む仲良しのイリヤ(アメリカ籍)が、ソフィアが部屋に居ないことに気付く


扉には鍵も掛かっていなかったらしい


「そんなことがあったらしくて・・・」Mちゃんが教えてくれる


「でね、金曜の夜中2時(土曜の2時)にね、私の携帯に着信があって。シャワー浴びてたから気付かへんかってんけど・・・これ聞いてみて」


そう言って彼女は、自分の携帯に入っていた留守電を、俺に聞かせてくれた


遠くで話す女性の溜め息のような感じで、10秒間ほどの録音だ


『ハ・・・ハ・・・フ・・・ハ・・・』意味不明な言葉が続く


「なんじゃこれ?」


「これ、全然知らん携帯からやねんけど、声、ソフィアや思うねん」


そう言って俺に「どうしたらええやろ」と聞くので


「これソフィアかも知れんって、ママには言った?」と訊ねると


「ソフィアのこと今日のミーティングで初めて聞いて、だんだんソフィアやんって思えてきて、Tさんに初めて聞いてもらったんよ」


イタズラかとも思ったが不気味な留守電だし、何か予感がして、消さなかったそうだ


話しているうちにMちゃんは、段々と怖くなってきたらしく明らかに青ざめてくる


これはマズいと思い、ママを呼び事情を説明する


Mちゃんはとうとう震えだしたので、取り敢えずこの日は上がらせることになった


翌朝ママから電話があり、昨晩はMちゃんを自分の家に泊まらせ


夜のうちに警察に留守電の件を伝え、朝一番、Mちゃんと一緒に出向いてきたという


ところが夕方。


Mちゃんから電話があり、怖い怖いどうしよう!!と尋常でないので


とあるショッピングモールのカフェで落ち合う


会うと、「怖い怖い、なんで私なのかわからん・・・」と怯えきっている


どうしたのか訊くと


つい先ほど、警察から返して貰ったという自分の携帯を開き、顔面蒼白で俺に差し出す


受信メール画面だ


開かれているのはどうやら、ソフィアと仲良しだったイリヤからのメールのようだ


「その添付、見て」Mちゃんは顔を歪める


そこに添付されていた画像はソフィアだった。


初めは、部屋で自撮りした下着姿のソフィアが、カメラ目線でこちらを見ている、たわいもない画像かと思った


・・・が、すぐに、右下隅に写る"それ"が目に入る


な、なんだこれは・・・


すぐさまママに電話し、イリヤに確認してもらう


なんでこんな写メをMちゃんに送ったのか。

このソフィアの画像は何なのか。


私は送っていない

私の携帯は金曜から無くなった

それはママにも話して、今は代わりの携帯を貸りてる


イリヤはそう言ったそうだ


これで明日、ママはMちゃんとイリヤを連れ、再度警察に向かうことになるな


大きな事件にならなければよいのだが・・・



・・・と、ここまでがもう7年前の話


ソフィアはその後も行方不明のまま

イリヤは国に帰り

Mちゃんは今、ウチの事務員


我々が違和感を受けた"画像"の真相は、警察鑑定でも謎のままだった


その画像は後日、Mちゃんが消去する前に転送してもらった


上目遣いの悩ましげなソフィア。

自撮りの彼女の正面には、間取り的には隙間もなく壁しかない。

だが、彼女の、向かって右手床に写る、手首。

明らかに本人のものではない。

その手の付け根・・・つまり手前壁側には、人の横たわる余地など全くない。

その手は全く生気なく土気色で、ところどころ赤黒く変色していた。

あの色は、いわゆる「死斑」というものではないのか。


そして・・・今もその画像は、俺のスマホに眠っている。

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