第32話 36年振りに合点のいった話

正確に言うとゾッとする話ではない


俺の本名は雅彦、それを踏まえてのお話


高校時代は来る日も来る日も、神戸は六甲山の採石場でアルバイトしていた


36年前で日払い手取りが9,600円だったから、体はキツいが良い稼ぎだったと思う


必ず山に上がれる訳でもなく、‪朝5時半に‬メトロ神戸という地下街に並び、募集人数枠に入らねばならない


翌日も確実にバイトしたいのと、山を降りるのが面倒臭かったのとで、プレハブ宿舎(飯場)に泊まる事も多かった


新しいシーツ代500円をケチった日などは、ダニに噛まれて一晩中、眠れなかった


仕事が終わり、‪午後4時過ぎに山を降りてくると


JRの高架下にある居酒屋で‬、1,500円のモツ焼きセット(ビール大瓶付き)を注文するのが楽しみだった


真っ赤な、血か肉なのか分からない物体が壺に入れられ、これでもかと唐辛子が振られている


それをトングで七輪の網に乗せ、焼けるとそのままトングで喰う


多分あんなのを週3ペースで食べてたから体力が持ったんだろうなぁ


そんなこんなで学校にも行かず、飯場(はんば)が俺の教室だった(バラエティに富んだ元◯◯のオッサンだらけだった)


ホンマかいなという自慢話や逸話(偽話)を、代わる代わる聞かされるのだ


1番若い俺が喰い気味に聞くものだから、皆面白がって話してくるのだ


どちらかと言うと「誰にも言うなよ」系の話が多かった


「誰にも言うなよ、あのな俺な、グリコ森永の犯人、知っとるねん」


「誰にも言うなよ、俺ヒットマンやってん。今まで50人消しとる」


「誰にも言うなよ、儂な、3年前まで柏原芳恵と暮らしとったんや」


信じてもいないが、中には「ホンマかも知れん・・・」というハイクオリティな話もあった


そんなだったからいずれ、学校の出席日数も足りんようになるのだが。


中でも特に仲良くなったのが、原田さんという、当時50代のもの静かなおっちゃん


ある日、作業員名簿に名前を記入していると


「おっ、兄ちゃんは『雅彦』言うんか」


後ろから声を掛けられた


「俺な、『天彦』言うねん」


「"あまひこ"さんっすか?珍しいっすね」


聞けば熊本は天草市の出身


「あー、だから『天』が付いたんすか」


「それが違うのや。お袋曰く"予言する精霊"から採った名前らしいねん」


へぇ〜そうなんスか〜と、その時はそれで話が終わった


原田のおっちゃんには、下山しても飲みに連れていって貰ったりしていたので、今でも鮮明に記憶が残っている


時は経ち、2020年5月。


ネットニュースを見ていると

「水木しげるの描いた『アマビエ』無料で画像提供へ」とあった


ああそう言えば最近、疫病を治める妖怪「アマビエ」の画像が、そこら中で出回ってたな・・・


確か「STOP!感染!」とかで政府公報にもアマビエが載っていたような。


そもそも「アマビエ」って何なん?

ググってみた


ほうほう。

肥後国(熊本)発祥の。

半人半魚の。

豊作や疫病を予言する妖怪で?

尼彦・あま彦・天彦とも言われて・・・


あれ?

あれあれ?


原田のおっちゃん?!

そういう由来やったんかぁ(´皿`)

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