第29話 ジェーン・ドゥ

ジェーン・ドゥ (Jane Doe)・・・女性版・名無しの権兵衛のこと


もう6年前から・・・年に一、二回かな?スマホに着信があって


登録していないから何処の誰かも分からず


ネットで番号照会すると迷惑電話では無さそうなのだが


かといって一度も電話に出ることなく、掛け直すこともなく、数年が経っていた


一度だけ留守電が残っていて・・・


と言っても意図したメッセージではなく、息遣いのようなものが残っていただけだ


それが女性のように思えたので、俺はその番号の主をジェーン・ドゥ、「J.D」と登録した


・・・で。


一昨年1月の初め。横浜港でコロナが初めて実体化した頃の話。


そのJ.Dから着信があった


俺はちょうど席を外していて、自席に戻ってくると着信履歴に「J.D」と残っている


これ、もう・・・ほぼ一年振りの着信じゃないのかな?


足掛け5年。忘れた頃に掛かってくる電話。


なんかそろそろ、決着をつけた方が良いような気がした


深呼吸したあと、思い切ってリダイヤルしてみる


30秒ほど呼び出したが、電話に出ないようなので切ろうかと思った時


「まさみけ?」

 

えっ・・・お婆さん??


「まさみけ?」


「いやあの、違いますが」


「まさみちゃうんけ?」


「はい、違うのですが・・・さきほどお電話頂きましたよね?」


「電話?あ~まさみに掛けたけど?あんたまさみちゃうんけ?」


「あの、間違いみたいですね」


「ほうか・・・まさみやないのけ・・・」


「はい、ごめんなさい。あの、ではこれで切りますね?」


「はあ・・・」


「失礼します」


お声と訛りからして、90くらいの関西のお婆さんじゃないのかな・・・


まさみって誰だろう?娘?息子?


ていうかこのお婆さん、足掛け5年も間違えて電話掛けてたの?


で、その間、俺は電話に出なかったという。


なんか申し訳ないことをしたかな・・・スマホを見つめながら考えていると、またJ.Dから着信


「はい、もしもし?」


「あのね、あんたまさみやないんならね、まさみ知りませんか?息子なんです。ふら~っと出ていってね、そのまんまなんです」


「えっ?!・・・あの~それは、いつの話ですか?まさみさんは、お幾つでらっしゃいます?」


「そんなん小学生ですがな。六年生。昨日もね、野球しとったんですよ原っぱで。」


待って待って待って???


「あの、それは、警察に届けましたか?」


「警察てあんた、そんな大層な」


噛み合わない・・・


「あの、私はまさみさんを存じ上げませんので、申し訳ないのですが」


「そうですか・・・どこ行ったんやろか・・・」


「あの、周りに誰か居られたら、ご相談してみては?」


「嫁がいますねん。代わりましょか?」


「あっいやいや、えーっと、う~ん・・・じゃあ代わってもらえますか?」


「嫁はね、電話出ない言うてます。まさみさんもね、出ない言うてます」


「まさみさん?えっ居られるんですか?」


「まさみはどっか行ったままですわ」


埒があかない。


「わかりました。一旦、電話切りますね」


「ああ、はいはい。」


直ぐに警察の知り合いに電話する


的を得ない内容だが、電話番号を調べてどうにかならないものか、聞いてみた


わかったちょっとそっちの担当に確認してみる、と引き受けてもらう


その後J.Dから電話は掛かってこなかったが、2ヶ月以上経ったので警察の知り合いに問い合わせてみた


「あっごめんごめん報告忘れてた。あの件な、もう50年前に解決してる」


「ちょっと待って、なに解決って?」


「ん~要は、詳しくは言えないけど丹波(兵庫)で失踪事件があって、息子さん、山で亡くなったらしい」


「待って待って・・・俺いま、めっちゃ怖いねんけど」


「その母親も精神を病まれたそうだ」


「えっ?・・・その人が、俺に電話掛けてたん??」


「いやいや、その母親はとうに亡くなられてる」


「ちょっと待って笑・・・じゃあ電話のお婆さんは?!」


「ん~持ち主は、失踪された男性のご兄弟の奥さん」


・・・。


「あの~Tさぁ、もう触れるな。お前が忘れたかと思って、あえて言わなかったのもある」


まてまて・・・次また掛かってきたら俺は、どうしたらいいのだ?


それから1年以上経ったが・・・


そろそろ掛かってくるのじゃないかと内心ビクビクしてるのだが。

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