第22話 風評被害

山口サビエル記念聖堂(ザビエル、とは濁らないのが正しい)が


旧聖堂と、立て直された新聖堂とでは、あまりにも形状が違いすぎるという話題になった


ビフォーアフターを見せてもらったが、確かに


教会だった建物が、まるでディズニーランドにある、スペースマウンテンが入る建物のように様変りしていた


それを見てこの先、かの首里城が修復の過程で、まさかとは思うが趣旨が変わり


チャペル結婚式場みたいになってしまわないか、一抹の不安を抱いてしまった


さて。


神戸の震災当時、俺は新幹線の新神戸駅近くにあるマンションの8階に住んでいた


あの地震で動いた活断層の通り道は避けたが


マンションの耐震構造的に今後が不安だということで、立地は気に入っていたのだが退去を余儀なくされた


その後マンションは解体され


のちに新たに建てられたビルには、一時期、分裂した神戸の組事務所が入る・入らないで立ち退き問題がクローズアップされたこともある


マンション退去後の俺は、神戸を離れて数年間、大阪で暮らしていた



・・・話は変わるが、小学校時代の同級生でDという男がいた


こいつが高校の時に、神戸の裏六甲の峠で、仲間と2ケツしていたバイクで事故って "死んだ" という話が、当時、誰からともなく回ってきた


2人とも即死だったらしい


さて、冒頭の理由により神戸を離れていた俺は、4年振りに地元の夏祭りに、生まれたばかりの下の娘を連れて帰省がてら参加した


娘を連れ盆踊り会場に赴いたのだが、向かいから歩いてくる男を見て背筋が凍りつく


どうも見覚えがある・・・

誰だったか・・・誰だったか・・・と考えているうちに、記憶が蘇った


Dだ。間違いない。


しかしあいつは死んだはずだ。

なんでこんなところにいるのか・・・いや、他人の空似か。


俺は全身に寒気を感じながら、その男の脇を通り過ぎたが


程なく縁日の金魚すくいの前で、これまた見覚えのある、小学校時代の同級生の女子を見つけた


旦那と子供かな?と一緒にいたその女子に、背後から近づき「よっ」と声を掛ける


振り向いた彼女は一瞬、思考が停止したようで目を白黒させていたが、その彼女に


「久しぶり!ところでさっきそこで、Dそっくりの男を見掛け・・・」


まで言ったところで彼女は、あからさまに動揺し


明らかに恐怖に怯えながら、旦那と子供の腕を強引に引っ張り立ち去って行った


なんや?

どないしたんや?


変な奴。


・・・いや、同級のあの子だと思ったけど、違ったのか?


首を傾げながら会場をゆっくり見物して歩いていると


向こうから先ほどの彼女が、数人の女性を連れてやってきて、俺を指差し叫んでいる


そして彼女達は、ぐんぐん俺に近づいてくる


「Tくんどうして?!」

「ほんもの?!」

「いままでどこにいたの!!」


は?

なんだ君らは・・・


しかし、盆踊り会場の外れに連れて行かれた俺は、彼女達から事情を聞き


“世の中実際に、そんな間違いが、起こり得るのだろうか・・・?”


苦々しくもあるが、とても不思議な感覚につつまれた


そう、俺は死んだことになっていたのだ、あの震災で。


しかしそれなら尚更のこと・・・


「俺のことより。Dを見なかったか?」


「そう!見つけたのさっき!生きてたの!」


どうやら俺の前にも一騒ぎあったようだ


Dは高校を卒業し、遠く離れた土地に職業訓練も兼ね就職したのだが


バイク事故で死んだ1人がDと親友だったため、死んだもう1人はDだったという誤情報が流れ、それが信じられてしまったのだ


ちなみに彼は一年前、実に15年振りに地元に凱旋し


何気に昨年の盆踊りにも来場していたのだが、誰にも会うことなく終わったらしい


そして今年も家族を連れて盆踊りに来たところ、同級生に発見され大騒ぎとなり


その騒ぎが冷めやらぬうちに、もう1人、死んだ男子があっちでも彷徨っていた!と


これまた大騒ぎが起こった


立て続けに騒動に巻き込まれたDは、俺に会う前にうんざりして帰ってしまった


そのDとは、翌2日目の祭り会場で遭うことができた


「勝手に殺されるって寂しいものだな・・・」

2人でしみじみ語ったのだが


1日目の騒動を知らぬ同級生が、もし今、我々2人を見つけたとしたら・・・


盆踊り会場に幽霊が2体、徘徊してる!とでも思っただろうか


お盆だけに・・・

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