第19話 アンマー

とある方の葬儀に参列することになった


"そうなるまでの経緯" を、詳細は伏せた上で載せることにします。


2年前に自分が生まれて初めて霊体験をした事で、心霊現象というものに興味が湧き


片っ端からそういった話を聴き漁るようになった


で、今更分かったことだが、そういった話には創作物が非常に多いということ(ある意味、当たり前?)


●彼女、少し霊感があって・・・

●仲間と廃病院に行くことになり・・・


こんなフレーズの応用で、あとは適当にパーツを組み合わせれば


それなりの怪談話にはなる


で、結局、何処かで聞いたような似た話になる



同年齢の、仲の良いE社長には、これまた兄弟のように仲の良い親友Mさんがいて


俺も数回、一緒に飲んだことがある


そのMさんからE社長に


「今、亡くなったアンマー(母親)が目の前で晩飯作ってる」とLINEがきたとき


ぞぞぞと寒気が走ると同時に、どう返していいのか一瞬悩んだという


「今からアンマーのじゅーしぃ(炊き込みご飯)食べる」


「ごめん意味分からん。酒入ってる?」


「飲んでないよ」


「亡くなった人が、なんでいるの?」


「わからん」


「分からんって、お前」


「やーよ、くまーこい(お前もこっち来いよ)」


E社長のマンションからMさんの家までは車で15分


何故か、行かなきゃならん気がしたので、夕方5時過ぎ、車を出す      


10分で着いたE社長は車を近所の駐車場にとめ、マンションに向かう


Mさんの部屋は5階だ


Mさんは俺と同じく、独身を謳歌している方だ


インターホンを鳴らす


「Eだけど」


「あっ開けるよ、上がって」


ほんとうに母親なんて居てるのか??


5階にあがり、部屋のインターホンを押す


ガチャ


扉が開き、Mさんが顔を出す


「おっ、上がって」


何事もないかのように言うので


「ちょっ、ちょっと。その・・・お母さん、居てるの?」


「いるよ?台所に」


これはもう、本当に誰か居るのであれば、冗談を言う奴ではないし、覚悟を決めた


「じゃあ、おじゃまします」


Mさんのあとを追ってダイニングに向かう


意を決してダイニングに入る


「おじゃまします・・・」


台所のテーブルには、所狭しと料理の盛られた皿が置いてある


ちなみにMさんは包丁すら持てない


まじか・・・


しかし、周囲を見渡すが人の気配はない


「なあ、どちらに居てらっしゃるの?」


「あれ?アンマー?どこいったんだろう?」


「この料理は?」


「ああ、お前を待ってたんだよ。さ、食べよう」


キッチン回りなどを見渡してみるが、惣菜を買ってきて皿に移したような形跡はない・・・というか


調理に使用した鍋やフライパンが出たままだ


「なあ、お前が作ったんじゃなくて?」


「はっは、俺にできると思う?」


結局、普通に晩御飯を戴くことになった


料理は総じて、ザ・家庭の味!という感じで美味しい


途中何度か「おばさんは?」と聞いてみたが


「風呂じゃないか?」

「洗濯してるんだろ?」


適当なことばかりMさんは言う

しかし他の部屋からは音もしない


もうそれ以上の詮索はやめた


詮索はやめたが食事中、Mさんはやたらと、自分の子供の頃の遊びや小学校のこと・当時の友達のことを語った


よくそんな40年以上前の事を覚えてるよな、と突っ込みたいくらい鮮明に、話して聞かせてくれた


2時間ほどお邪魔した後、代行を呼んで帰ったのだが


少なからず嫌な予感もしたので


翌日、Mさんを知る主要メンバーには、この日の出来事を話しておいた


そしてその晩餐から13日後


Mさんは5階から飛び下りて亡くなった


リビングには、子供の頃のアルバムが開かれたまま置いてあったという


その翌日はMさんの誕生日だった


亡くなる前にE社長から晩餐の話を聞かされていた知人たちは


Mさんは、母親の姿をした何かに連れていかれたのだと、皆同じことを思ったが


「アイツ、俺と飯喰った時にはもう、死ぬ腹積りだったんだと思う。だから母親が『アンタ来るのはまだ早い』って止めに来たのかも知れない。アンタの好きな御飯食べて、もう一度元気出しなさい!って」


そうであって欲しいと、俺も思う。


結局、Mさんを止めることは出来なかったけれども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る