第15話 呪術2
協業さんの若手に、宇佐美くんと言う24歳の男の子がいる
ごく普通の、どちらかといえば大人しい子だ
我々は彼を「ウサミー」と呼んでいる
ウサミーが「2年間住んでいた借上げ社宅から出て、自分で部屋を借りたんです」と言うので
何かやらかしたのかと聞くと「隣室か直上階なのか分からないのですが、ここ半年めちゃくちゃお香臭いのです」という
夜も眠れないほど匂ってくるらしく、ベトナムの方でも住んでるのか
はたまた誰か、部屋で占いの館でも開業しているのか
会社に事情を説明して部屋を変えて欲しいと頼んだのだが、今ひとつ真剣に聞き入れて貰えず
もう匂いに耐えきれず、仕方なく自分で部屋を探すことにしたのだと言う
寝られたらそれでいい、という彼であったから、会社近くの安い物件が見つかり、直ぐに引っ越せたらしいが
社宅を出る日、管理会社の立ち合いを受けた際に、確認にきた男性が部屋に入るなり
「お香焚かれてましたか?」と聞いてきたそうだ
「いえ、私は全く。ていうかこの匂いが嫌だから部屋を出るのですけど」
少々ムッとしたウサミーが言い返す
「失礼しました。そうですか・・・他の部屋ですかねぇ」
それ以上、匂いのことは言われることなく確認は終わったそうだ
ここまでが、前回彼がウチに来たときに聞かせてくれた話だ
それから10日後
彼がウチにやって来て、どうも元気がなさそうだったので
「新しい部屋の住み心地はどう?」と聞いてみた
「そのことなんですが・・・」彼が曇った顔で語りだす
部屋を移ってから1週間が経った頃、会社に、前部屋の管理会社から電話があり、ウサミーに確認したいことがあるという
外回りから帰ってきた彼が、メモされていた携帯番号に電話を入れると、立ち合いに来たあの男性だった
「左隣の住人を見たことはあるか、って質問なんですよ」
「おっと・・・それってヤバい話?」
「左の部屋に人が住んでたなんて、初めて知りまして。見たこともないし、音を聞いた事もなかったので」
「・・・で?」
「その部屋、見て欲しいと言われて確認に行ったんです。ゾッとしました・・・」
「まさか?死ん・・・」
「いやいやいや。もっとタチ悪いです」
その部屋は、ウサミーが住んでいた部屋と全く同じ作りの1LDKであったが
入室すると同時に、強烈なあの匂いがした
事件性があるかも知れないからと、そのままにされていた部屋の
6箇所に金色の香炉が置かれ、何かを燃やした跡がある
家具や電化製品などの類いは一切無く、ただ香炉だけの部屋
匂いを消すために窓は開け放してあるが、染み付いた匂いは簡単には抜けないようだ
それよりも何よりも
旧ウサミー部屋に隣接する壁1面に、おびただしい枚数の梵字のお札が貼られていた
それだけでもギョッとしたウサミーだったが
それ以上にゾッとしたのは
壁一面に貼られたお札の真ん中に、赤字で書かれたウサミーのフルネームが、逆さに貼り付けられていたことだった
「えっ?何それ・・・」
借主は30代の男性で半年前に入居したそうだが、ウサミーには全く心当たりのない名前だった
半年前といえばウサミーが匂いに悩まされるようになった頃と合致する
その男性は今も行方知れず・・・というか
そもそも住んでいたのか居なかったのか、それすら不明らしい
「ウサミー、なんか人に恨まれるような事した?」
「無いです無いです」
一応、管理会社が警察に届け出たが、その後、特に進展はないらしい
「気持ち悪い話やな・・・」
「Tさん、僕・・・ヤバいかも知れない」
「まあゾッとするよねぇそれは」
「違うんです、昨日からまた匂うんです、引越した部屋から・・・」
それから更に1週間が経った
隣室の借主は、30代ではなく20代前半の配達員の男性だったそうだ
何も起こっていないため事件性を問われるまでにならず、厳重注意で済んだそうだが
相手は誰でも良かったらしく、動機としては
「隣人の運気を上げたかった。その実験だった」と主張しているとのこと
運気を上げるのだから悪いことではない、恨まれる筋合いはない、という理屈
「そんなの大ウソで、誰でも良いから呪術的検証をしたかったのだと思いますよ絶対」彼は憤る
「でも、部屋移ってからも臭うって言ってたやんか。あれは?」
「ああ、あれは関係なくて、上司の臭いが鼻に付いていたみたいで」
確かにおたくの◯◯部長、雨の日の傘みたいな臭いするもんな・・・
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