第16話 失われてゆくもの

家人なら気付く気配、というものがある


誰か帰ってきて玄関開けたな、とか

トイレ行ったな、とか


これはまだ、モモイロインコがウチにいた頃の、ある日曜日


16時ごろに玄関が開いた感じがして、インコもキュルル!と反応したので


えっ?誰か入ってきた?

鍵は閉めてるはずだが・・・?


少々ゾッとしつつ玄関に行くと、扉は閉じたまま


ちょうどマンションの外壁工事が竣工し、足場を解体していたため


その音と間違えたのかな?と思ったのだが


17時ごろ、また玄関が開いた感じがして、間を置かずインコも鳴いたので


「シェリー(インコの名前)、今のは絶対誰か来たよなぁ?」


そう言いながら玄関を見に行ったのだが、やはり扉は開いていない


なんと不気味な・・・


その後、17時半過ぎに晩飯にした

シェリーもテーブルの上でぶどうを食べている


と、また玄関の扉が開いた感じがして、シェリーも玄関を向いてキュルキュル鳴いている


一体、何なん?!


玄関を見に行くとやはり、鍵も掛かったまま開いてない


これは完全にポルターガイスト現象やないか・・・


いったんリビングに戻り、ごめんなーちょっと入っててねーとシェリーをケージに戻し、玄関の外に出た


・・・と、


2部屋となりの住人の男性・Uさんが扉の外で立っていて


俺が出てきたのを見て、こちらにやってきた


「あの、Tさん、もしかして・・・」


Uさんが声を掛けてこられたので


「あ、もしや扉?」と訊ねてみる


「あ、お宅も?」


なんと、同じ現象が起きていた


これはおかしい、となり、2人でマンション内を見回ってみようということになった


まず自分たちの3階。


不審人物は見当たらない

おかしなところもない


5階〜1階まで順に見て廻ったが、誰にも会わないし変わったところもない


「う〜ん・・・何なんですかね?」


何も無いなら別段、騒ぎ立てることもないのだが


一応このマンションで重鎮の老夫婦

https://kakuyomu.jp/works/16816927860625905616/episodes/16816927860719285656

には


変わったところがなかったか聞いてみますか、ということになった


お2人の住む2階に向かおうとしたとき


エレベーターが1階に降りてきて、見知らぬお婆さんが出てきた


このマンションでは見かけたことのない方だ


お歳の頃は80代だろうか


服装が、どこか変だ

着の身着のままというのか、部屋着のままというのか


「あの、すみません、家がわからなくて」


お婆さんが声を掛けてきた


どうやってオートロックを通れたのか

誰かに付いてきたのだろうか


・・・あ!


外壁工事の職人が、開けたままだったのか?!


Uさんと俺は瞬時に状況を悟った


「お婆さん、ご住所わかりますか?お名前は?」


「◯◯ですけど、家がわからなくて・・・」


「ちょっとお待ちくださいね、いま調べますね」


ロビーにある椅子を持ってきて座っていただく


Uさんが110番する


5分も待たずお巡りさんが到着、状況を説明しバトンタッチした


ここまで読んで頂ければ、皆さんもお分かりになったと思う


このマンションに迷い込んだ、おそらく認知症のお婆さん


最初に玄関が開いた感じがしたのが16時、3回目が17時半過ぎ


ということは少なくとも1時間半


開いている扉を探してガチャガチャと


いったい何回、各フロアを行ったり来たりしてらっしゃったのだろうか


もっと早く気づいてあげれば良かった


20時ごろ警察から電話


このマンションと、さほど離れていないマンションの住人だったという


旦那さんが目を離した隙に、部屋を出て行ったらしい


帰る家がわからないなんて。


これほど切ないことがあろうか・・・

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