第12話 同伴者

同い年で、バーのオーナーで親友のM。


先日飲みに行った時に「お前、こういった話好きだろ」そう言って聞かせてくれた話


ある夏の深夜、Mは


恩納村にあるシェラトンサンマリーナを右手に見ながら、58号線を南に歩いていた


飲んでいた知り合いの居酒屋から、さらに北に10分ほど歩いたところにある、これまた知り合いのスナックで飲んだ帰りだ


車は居酒屋に置かせて貰っていたから、そこまで戻って、代行で帰る予定だった


ほろ酔い気分でスナックを出たのが23時半‬


国道の左側を、車道にはみ出ぬよう、足取りに気を付けながら南下をはじめる


幾度となく自分を、車のライトが後ろから照らしては、ビュンと走り去ってゆく


・・・歩き始めてから数分後、背後から車のライトが近づいてきた


が、一向に自分を追い越さない


不審に思い振り向くと、1台のタクシーが、ハザードを点滅させながらじわじわ自分に近づいてくる


ん?


両手はジーンズのポケットに突っ込んでいるから、止めた?と見間違えられるような仕草はしていない


前に向き直り、そのまま歩いていると


そのタクシーはMに速度を合わせて併走しながら、助手席の窓を下げる


なんだ?俺に用か?


タクシーの、下がった助手席の窓に首を屈(かが)め「なんか用?」と運転手に声を掛ける


「えっ?お客さん、手を上げてたでしょ?」


「は?上げてないですよ?」


「え、さっきから、何度か、振り向いて止めて」


・・・そこまで言って運転手は


「あっすみません」慌てて車を発進させていった


なんだおい、人を呼び止めておいて。


気味悪いだろ・・・何度か振り向いて止めたって、なんだよ?


・・・まあいい、再び歩きだす


そのうち遠目に、車を停めていた居酒屋が見えてきた


すると背後から光源が近づいてきて、プッとクラクションが鳴る


ん?


振り向くと、またタクシーがハザードを付け、速度を落としながら近づいてくる


えっ、また俺か??


足を止める。


タクシーが助手席の窓を下げながら近づいてきたが、奥から運転手が


「あれ?あれ?・・・あれ??・・・お兄さん、いま手を挙げてらっしゃったお連れの女性は・・・どこ??」と言う


Mはギョッとして自分の周囲をグルグル見回してみる


もちろん誰も居ない


「え、俺1人ですよ?ずっと」


「またまたぁ・・・さっきから女の人が手を挙げて・・・」


あっ!!という顔をした運転手


「すみません、私の勘違いのようです」と、慌てて車を発進させていった


まてまてまてまて。


2回も同じシチュエーションで間違うってあるか


ていうか2人とも、俺の顔を見て慌てて去って行ったな・・・


女?女の人って言った?


俺は髪を伸ばしているから、後ろ姿は一瞬女性に見えなくもないが・・・


俺を女性と勘違いしたのか。

俺の後ろに、手を挙げてタクシーを止めた女性がいたのか。


とりあえず、自分の車まで戻ってくる


先のスナックを出た時点で、代行に時間と場所を伝えていたから、もう間もなく来るはずだ


居酒屋にはまだ電気が付いているが、もう入らない


数分して代行が到着。


「ライカム(イオン沖縄)まで。そこから先はまた指示します」


高速を使って25分ほどだ。片道340円、随伴車両分も特にケチることはない


車内で少しウトウトしていたが、高速を降りる気配がしたので背を起こす


次を右、その次を左・・・と細かく指示しながら、家に着いた


料金を払い、代行が去る。


「なあT、お前なら、ここで気付いたよな?」


「ああ。北中城村(きたなかぐすくそん・イオン沖縄ライカムの辺り)って、前の・・・」


「そう。3年前まで住んでたマンションの前に、俺行っちゃったんだよ」


「どういうことよ?」Mが作り話をするとは思えない


「誰かを乗せて、そこで降ろしたのかもな」


生霊?死霊?


それなりに遊び人のMのことだからな・・・

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