第7話 京都怪異談
京都にて。
叡山ケーブル八瀬(やせ)駅から京都駅に向けてタクシーに乗った際、運転手が
「修学旅行生も観光客も居なくなって本当に、こんな距離乗ってくれるお客さんが有り難いです」
そう声をかけてきたところから雑談が始まり
「そうそう運転手さん。過去に怖い思いしたことあります?」と尋ねてみた(なかば恒例行事)
「あ~それはもう、沢山ありますけど・・・どれだろう・・・」
おっ?この方、相当ネタを持ってそうだ
「いろんな『怖い』がありましたけど・・・お客さん、深泥池(みぞろいけ)ご存知ですか?」
「あ、深泥池で白い服の女の人乗せたらいつの間にか消えていて、シートが水浸しだったって、有名な話ですよね?」
「そうそうそれです。我々タクシー運転手は、深泥池付近では乗車拒否していい、なんて噂が立っているくらいで」
「え、それを・・・乗せたんですか?」
「去年の10月ごろだったかな。夜の11時すぎに、京都薬科大から女性を乗せたのですよ」
「ほう」
「30代のOLさんでしたかね、行く先が深泥池の児童公園前だったんです」
当時の車内。
深泥池までは30分弱というところだ
夜の池は確かに不気味ではあるが、マンションや戸建て住宅が普通に立ち並ぶ場所でもある
数分走ったところで、後部座席の女性が声を掛けてきた
「・・・出るんですよね、深泥池って?」
「えっ?・・・ああ、はいはい。でもそんな都合よく出ませんねぇ・・・残念ですが」
「でも多いんですよね?」
「さあ・・・噂は多いですけど、実際にはどうなんでしょう?」
時間が時間だし女性だし、いちおうバックミラー越しに覗いてみる
噂の霊であればバックミラーには映らないのだ
女性は普通に映っている
「運転手さんは遭遇したことないですか」
「ないですないです、会いたくもない笑」
「減ったのでしょうかね・・・」
「さあ・・・ああいうものは減るんでしょうかねぇ?」
「ランカクとか・・・」
ランカク?乱獲?・・・幽霊を?
「どんぐりも最近、無いらしいですし・・・」
「どんぐ・・・ああ!イノシシの話?!私てっきり幽霊の話かと」
「・・・その後は互いの勘違いを笑いながら雑談して、公園近くで女性を降ろしたのですよ」
「そういう勘違い、好きですよ笑」
「いや、それがですね・・・府道40号線から右に折れた生活道路の先に、指定された児童公園がありましてね。そこで降ろしたのですよ。ところがその女性、家に向かうでもなく、草ボーボーの公園に入っていくのですよ」
「えっ・・・」
「午前0時前だし、公園には外灯が2本くらいだったかなぁ、暗いしね。ちょっと彼女の行く先を目で追っていたのですよ。そうしたら、公園入ってすぐ右手にブランコが2つあるのですが、その片方に座ったんです彼女」
それを見た運転手はゾッとしたが、なにか良くない予感もしたらしく
いったんエンジンを切ると車を降り
公園に向かおうとしたところで・・・あれ?
ブランコには誰も居ない。揺れもせず静止したままだ。
周囲を見渡してみたが、公園の何処にも女性の姿がない
倒れているのかと思って公園に入ってみたが、ブランコの草むらにも公園全体にも
女性の姿は見当たらなかった
恐ろしくなった運転手は慌てて踵を返し、車に戻ってきた
運転席のドアを開けようとして
ルームライトに照らされた後部座席に何かあるのに気付き、右手後部ドアを開けてみると
シートの真ん中に、バリバリに割れた携帯が落ちている
あっこれは、先ほどの女性が忘れていったに違いないと拾い上げると、何世代も前のピンクのガラケー
電源が入らないどころか、それ以前に
もう何年も水の底に放置されていた物を引き上げて、数日乾かしたかのように
乾いた泥がこびりつき、生ゴミのような悪臭がする
そう、まるで池の底に長年沈んでいたかのような。
「えっ・・・それで、どうされたのですか?」
「受け取ったタクシー料金はちゃんとした紙幣と小銭だったし、仮に霊的なモノが乗っていたとしたら変ですよね」
「その女性は?そのまま消えたまま?」
「はい、忽然と。池側に車を廻そうとも思いましたけど流石に怖くて」
「ドラレコは?」
「確認してもらったんですよ会社の人間に。そうしたら彼女、映ってました。映ってましたけどね・・・」
運転手は軽く身震いする
「あんなに私と話してたのに、一切、口が動いてなかったらしいです。というか、それを確認した会社の者曰く、私が一方的に話しているようにしか見えなかったそうですよ。・・・これが私の、今までで最恐の話かな」
「こっわ・・・ところで運転手さん、こっちの道、京都駅だっけ?」
「・・・あ。」
国道367号線を駅に南下している筈だったのに、いつの間にか運転手は府道40号線を北上していた
まさかその児童公園に向かっていたのではあるまいな(-_-;)
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