第5話 お地蔵様

沖縄は琉球神道が主で仏教信仰が弱いため、あまり仏像や地蔵というものがない


ところが、とある場所に、いつ設置されたのかわからない、朽ち果てた地蔵尊らしき石があった


そしてそれは、人のために祀られたものではないという


ありとあらゆる自然界の動物を護るためのものらしい



あるとき、その地蔵尊のある小高い丘が火事になった


消火活動の進む中、その石の周囲だけには火の手が押し寄せず


消防隊の目撃談では


地蔵尊を取り囲むように、様々な小動物が身を寄せ合って火の手を避けていたそうだ



その丘が、道路になることが決まった


あっさりと丘は削られ、1kmほどの平坦な道路が完成した


石は道路脇に移されたが、その扱いはとても雑だったらしく


今では生い茂った草むらのなかに埋もれてしまい、何処に在ったのかもわからなくなってしまった



それ以来、その道を通った者の間で、変な噂が立ちだした


明るいうちは何も起こらないのだが、暗くなってからその道路を走ると


突然「ばん!ばばん!」と車の窓を叩かれ


何事かと道路脇に車を停め、車外に出てみると


外灯に照らされた車のボンネットやサイドに、ケモノの爪で引っ掻いたような痕が付いていたり


あるいは窓ガラスに何か小動物の足跡が付いていたり


不思議な現象が起るのだという



仕事終わりの19時過ぎ。


Oの運転する車の助手席で、Uはうたた寝をしていた


突然


ゴトン!ゴロゴロ・・・ゴン!ゴロ・・・ゴン!・・・ゴン!


至近距離で、何か重いものがぶつかる音がして目を醒ます


U「なに??なにか轢いた?!」


「いえ?!何も無かったですけど・・・」Oは車を停める


「パンクじゃないよなぁ・・・」


2人は車を降りる


そこで初めてUは気付く


「おい、ここ、お地蔵さんの道じゃないの?!」


「あっ・・・」


そこからじわじわ、2人は寒気を感じだす


「懐中電灯あったっけ?」


「あ、トランクに」


Uは車の後ろに廻る


外灯の淡い光に照らし出された車体を見る限りは、噂話で聞くような爪痕や足跡は付いてなさそうだ・・・


Oが運転席横のレバーを引く


ぼん、と後部トランクが開いた


Uは扉を開け、薄暗いトランクを覗く


「うわっ!!」


思わず後ずさりするU


「ど、どうしたんですか・・・?!」


「なんだそれ・・・」


恐る恐るOがトランクを覗き込むと、そこには直径20cmほどの丸い物体


「えっ、これなに?・・・石ですかね?」


Oは後部座席の作業鞄から軍手を出し、それをはめて物体に触れてみた


「やっぱ石ですよ、これ」


そういってOは丸石を持ち上げる


密度が低いのか、思ったよりも軽い


そして驚くほどツルツルに研磨されている


Oは丸石をトランクから取り出し、道端に置く


懐中電灯を見つけたUが、それを照らす


「めちゃくちゃ丸いな」


「人工物ですかね?まるで何かの頭みたいな」


そこまで言って2人は、ハッと顔を見合わせる



実はその、地蔵尊だが・・・


相当に古いものらしく、苔生(こけむ)してもいるし、所々砕けて欠けてもいたから


石がもともと地蔵尊の姿をしていたのかさえもハッキリしていないらしい


頭部については特に損傷が酷かったそうで


誰が言い出したか


「あのお地蔵さんはずっと、新しくて綺麗な顔を待ち望んでいる」


・・・ほぼアンパンマンだが


そんな噂もあったのだ


●地蔵の道を通ったら異音がした


●ありえない丸石がトランクに入っていた


●地蔵尊は新しい顔を求めている


2人は "そういうことなのだ" との思いに至った



U「あのお地蔵さん、どこにあるんだろうか?」


O「分からないです・・・道の右なのかも、左なのかも」


周囲を見渡すと、たまたま一本の木が天高く伸びている


草むらに入り、その木の根本に丸石を置く


「すみません、場所がわからないので、ここに置かせていただきます」


誰にともなくそう言って、2人は合掌した



「そんなことがありまして。もうホント怖かったんですから~昨日・・・なあ?」


「あれはマジ怖かったですね・・・」


朝、事務所でU部長と大場くん(2人ともウチの社員です)が聞かせてくれた


俺「ホンマの話かいな~それ?」


U「ホントですって!2人して体験したんですから!」


「マジか。探してはったのかな、顔。でもその石が謎やなぁ・・・」


「何の話してるんスか?」

サーバーから落としたコーヒーを飲みながら、谷やんが話に入ってくる


「・・・ええっ?!捨てたんスかあの石!!」

血相を変えた谷やんが叫ぶ


「あれ○○くん(ダイバー)が○○の洞窟で見つけて、遺跡かもしれないって譲ってくれたのに!!」


なんでそんなもんを積んだままにしとるのだ・・・


いや、それもこれも、お地蔵様の御意思なのかも知れないな

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