第16話 時は壊れ時間だけが過ぎてゆく
「由美、大丈夫なの? なにがあったの?」
「気にしないで、ほら、私も聖良ちゃんに会いたくて無理しちゃったみたい、持病が悪化しただけだよ」
「それは違う、持病の悪化なんかじゃない、アイツらの仕業よ! 絶対なんかしてる! 私が突き止めてやる!」
「流石だね、やっぱりかっこいいよ聖良ちゃんは」
「なによ急に」
「ちょっと頼み聞いてくれる? 喉乾いちゃったから水筒持って来てほしいな、多分私の机の上にあると思う」
「分かった、安静にしてなさいよ! すぐ戻って来るからね!」
「由美! 持って来た…わよ」
そこに
「由美なら絶対大丈夫、私がしょげてる場合じゃない…よし!」
誰かが慌ただしく階段を駆け上がる音が聞こえて来た、音からして複数人の様子、一体どうしたのだろう。
「あそこです!」
現れたのは救急隊員と教師だった、「え?」(ちょっと待って、おかしい!)そう心の中で叫んだ。今ここに
「永江さん! 志崎さんの体調は落ち着いて来た?」
「先生…由美が……」
すぐに他の先生、隊員の方達に連絡を取った、
「まさか、そんなね」
ボソっと独り言を吐いた
妙な胸騒ぎがする、足を踏み出すたび胸が締め付けられるように痛くなる、まだ彼女に何も恩を返していない、最悪な事態を考えながら
天気は快晴、雲一つない空に輝く太陽、季節は秋になったが少し冷たい風と日光がとても心地よい。そんな屋上で髪を靡かせこちらを向く1人の少女がいた。
「ありがとう、来てくれるって思ってたよ」
「変な考えはやめて、まだ卒業まで1年以上あるのよ」
「懐かしいね、その約束したのって二ヶ月ぐらい前だよね、まだそれだけしか経ってないなんて、聖良ちゃんとはもっと昔から友達だった感じがする」
靴を脱ぎ、柵を跨ぐ。
「止まって!」
…………
「今まであなたに甘えてたけどもう終わり、次は私の番、絶対守って見せるから…だから…こっちに来て」
「見ちゃったんだよね、アイツらが聖良ちゃんの水筒に何か入れようとしてたの」
「それとあなたがどう関係が…」
「見過ごせないじゃん、大切な友達にそんな事してる奴ら、だから止めたの、そしたらね、入れようとした薬みたいやつ無理矢理飲まされたの…後で分かったけど…薬物だった」
「だったら尚更病院行こ? ごめん、これまで気付いてやれなくて、自分の事しか考えてなかった」
「謝んなくていいよ、聖良ちゃんは悪くない、私がバカだった、もっと早く助けを求めてたらよかった、もう…手遅れなの…疲れちゃった」
「待って!」
伸ばした手が届く事はない、彼女が視界から消えて数秒、鈍い音が聞こえて来た。最後に見た彼女はいつもと変わらない、優しい声、いつも変わらない、柔らかい表情、いつもと変わらない綺麗な目をしていた。彼女が履いていた靴を抱きしめ、天を仰ぎ大粒の涙を流した。
それから
「そうやって生きて来たから人を信じれないのよね、怖くなっちゃうから、美智子やあんたはちょっと例外かな、バカだし」
「あ、そうか……」
「あんたなら過去の事喋っても大丈夫って思ったから話したのよ、そんなに分かりやすく気まずそうにしたら真剣に話した私がバカじゃない、この話知ってるのなんてあんたを入れて3人しかいないんだから」
そうこうしている内に薬局に着いた、一度通り過ぎるほどに話に夢中になっていた、気が付けばこんな所まで、道中は何もなかった、正確に言えば化物はそこら中にいる、しかしこの雨のおかげで足音が掻き消されているのか誰もこちらに気付かなかった。
電気が通っておらず自動ドアは2人で協力してこじ開けた、中はとても綺麗だった。素早く包帯、湿布、と予定通り色々拝借した。
「あ、聖良、ちょっと来てくれ」
「どうしたの? はぁ、昨日も言ったけど止血剤って言っても種類はいっぱいあるのよ」
「強いて言うならこれとか使えそうじゃない? 使うかどうかは別にしてさ」
「へぇ、あんた意外と知ってるのね、たしかにただ血を止めるならそうだろうけど」
「な? この前みたいにガラス片で出血とか考えたら合ってもいいんじゃね? 試しにさ」
「分かった分かった、注射器もいるから何本か持って行くわよ」
薬や処置用具はほどほどに回収して最後に備品置き場から適当に注射器をバックに詰め込み次はドラッグストアに向かった、目的は傷口を塞ぐためのワセリンただ一つ。場所は目と鼻の先、いくらレインコートを着ているとはいえ水が浸透して来て気持ち悪い、少し小走りで移動した。
「2日ぶり? だよな、お前と会ってからまだ2日か」
「そうね、もっと一緒にいた気がするわね」
店内の奥から「うぅぅ」と言う声がする、奴らがいる、幸運な事にワセリンは入ってすぐの棚に置いてある、何故か風邪薬と一緒の棚に置いてある。
「さぁ、行きましょう、ついでに痛み止めとかあってもいいじゃない、これも持っていきましょう」
手際よく物を詰め込み外に向かって歩いて行く。
「アイツは見とかなくていいのか?」
「美智子の事? 大丈夫よ、別れは済ませた」
足早にその場を離れる、やはりまだショックは残っている、それもそうだ、彼女にとって数少ない友達の1人なのだから。彼女を追いかける形で後を追う、帰り道に懐かしい物を見つけた、大破した車がまだ残っている。当然と言えば当然だが。
そう言えば
「動いてる?」
記憶では室外機の横に倒れていたはずだが、今はそれよりも奥の方で倒れている、それに体の向きも違う様な? 雨である程度血が流されてはいるが残った血痕から見ても動いているのは明らか、わざわざ誰かが動かした? そんな事する必要なんてあるのか?
「永遠! 早く!」
「あ、悪い!」
この事は後でじっくり考える事にした、今はとにかく早く家に帰る事を優先した。
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