第17話 時は僅かに動き出す

「うーさっむ」


「暖房つけてみる? 雨降っとるし音は大丈夫と思うんやけど」


 聖良せいらは鼻を啜りながら頷いた、濡れた服とレインコートはとりあえず浴槽に持って行った、濡れた面積は狭いため問題なく乾くだろう。


「ねぇちょっと、私の下着取ってくれない? あと服貸してくれない?」


「はいはい」


 永遠とわバックを漁り下着を取り出した、服は適当にクローゼットから引っ張ってきたジャージでいいだろう。


「ほい、持って来たよ」


「ちょっとバカじゃないの!?」


 聖良せいらは服と下着を全て脱ぎ全裸になっていた、そうとも知らずに永遠とわは扉を開けた、素早くしゃがみ体を丸め前を隠したが、その一瞬で聖良せいらの体を永遠とわの視力1.2の目がバッチリ捉えた。


「え? あぁ、ごめんごめん、まさか全裸になってるなんて思ってなくてさ」


「そこ置いてて」


「…………」


「なに?」


「いや、悪役令嬢にしちゃ胸が小さいなって」


「……死ね、あんた生きて帰れたらセクハラで訴えてやるから勘弁してなさい」


 その後の時間はいつも通りの日常だった、いつも通りご飯を食べる、違いとしては兄貴からの連絡がないか逐一チェックしている、アメリカは今深夜の時間帯、連絡が来るなら夕方以降。


それと聖良せいらと普通に会話をする様になった。さっきの事を根に持っているのか終始ムスッとした表情だったが怒ってはいなかった。それどころか容姿について向こうから「あんたはデカイ方が好みなの?」「実際あなたは私の顔どう思ってるの?」「あなたは髪を染めたりしないの? あんただってイケメンだし」などと質問攻めされた。


1つずつ答えて行くと「別にどうでもいいけど若菜は結構デカイ方だったから無意識に比較してしまう」「肌綺麗やし目が大きいし髪サラサラやし、美人って言葉がすっごい似合う」「髪染めるのは嫌い、勿体無い気がしてね」と返した。


「なに勿体ないって? そんな事ゆうのあんたが初めてと思うんだけど」


「染めるって髪にダメージがってイメージあるやん? わざわざ髪を自分で傷付けるのがどうしても嫌、好きな色があるとか何か理由があってそうするならいいけど皆んなが染めとるけん自分も染めるとかは絶対したくない、それは単純にダサい」


「つまり永遠は素の自分が好きなんだね、自分の考えを持ってる、とっても羨ましい、私は…自分の事なんて何も分からないから」


 いつもと違う彼女の表情。髪を耳にかける仕草を見て(可愛い)…と心の中で静かに呟いた。


「前から聞きたかったんだけどさ、永遠ってたまに変な言葉使うよね、方言? みたいなの」


「そうやね、出身は福岡県の北九州、こっちに来てから変な感じに言葉が混じった結果こんな感じになったんよ、来た時はでたん、とか語尾にばいとか付けて話しとったけど今はもう出らんね、東京に染まったかも」


「福岡かぁ…博多美人って言葉をよく聞くけど、あなたの肌が白くて綺麗なのは関係あるのかしらね」


「肌か、よく言われるかも」


 彼女はニコリと微笑んだ。ソファで体操座りをして眠そうに欠伸をしている。


「なんか急に丸くなったね、さっきも裸見たけど怒ってはないんやね、そんな唐突に変わることある?」


「別に、なんか眠いからテンション低いってのもあるかしらね。それにあなたには2回命を救われてるのよ…いつか恩は返すつもりだから。


それに今更裸を見られたぐらいで一々どうこう言わないわ、胸の件はあとでキッチリ落とし前付けてもらうけどね」


 2人はその後も雑談を続けた、何も進捗のないまま時間だけが進んで行く、徐々に温まる室内、そして雨の音が心地よい、気が付けば瞼を閉じ2人揃ってソファで眠りに就いた。


次に目が覚めた時にはすっかり暗くなっていた。一応チャットを確認しようとパソコンの電源を付けようとした時にちょうどいいタイミングで着信が鳴った。ソファの間に挟まっていた携帯を取り出し電話に出た。


「もしもし、早いね」


「まあな、可愛い弟のためさ、俺だってたまには本気出すよ、2人とも無事か?」


「聖良は今寝てるよ…あ、ちょうど起きたわ」


「お兄さんから?」


「そうだよ〜君の救世主千夜君でーす」


「……早く要件を言いなさいよ要件を」


「その塩対応もいいね、会うのが楽しみだよ。ん、んん! さてと、この間言った通り部隊を送る、正確な位置は結局掴めてないが到着する分には問題ない、そいつらに携帯を持たせる、東京に入る事が出来れば通話は出来るはずだ」


「俺の考えすぎ? 東京に入る事が出来ればって、位置情報以外に問題でもあるのか」


「確定はしてねぇんだ、メディアのヘリは愚か、ドローンすら東京の上空に行けないって噂があってな、ドローンに至っては無条件で破壊されたとも聞いた、


前から言ってる様に政府が何か裏で糸を引いてるなら最悪衝突は免れないかもしれねぇ、それに反発する一部の自衛隊組織と政府が歪みあってるって話もあるから全て計画通りって訳には行かなさそうやわ」


「話聞く限りだと政府は東京にいる人を皆殺しにしようとしてない? それより総理はどうしたのよ総理はアイツこうゆう時にも役立たずなのね」


「…れ……が…」


「千夜?」


「…と………か…」


「どうしたのよ」


 急に千夜せんやの声が途切れた、よーく耳を澄ませれば途切れながらも声はギリギリ聞こえる、しかし何も聞き取れない。


「これってもしかしてジャミングか?」


 電話を聖良せいらに手渡し、痺れた足を引きずりながらパソコンの電源を付けた。とりあえずチャットが送れるかどうか試してみる。


「(ジャミングされてる可能性がある、何か原因分かるか?)」と送った。


すぐに返信が返って来た、チャットを送る事は可能、しかしさらに問題が発生した。「(縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ)」千夜せんやから送られて来たチャットは文字化けしていた。


「(そっちのメッセージが文字化けしとる、こっちから送った奴が問題ないなら適当に連投してくれ)」幾つものメッセージがすぐに返って来た。


「これどうすんのよ」


「まだ方法はある、電話の途切れといいチャットの文字化けと言い人工的な操作を感じるんよね、それならこっちからも戻せる」


 永遠とわすぐに別のタブを開き何やらコードを書き始めた。


「え、プログラミング? それは何やってるの?」


「前に遊びで文章を文字化けさせるソフト作った事あるんやけどそれと同じ感じでなんとかならんかなって、一応インターネット経由でも出来たし」


 物凄い速さでコードを書き進めて行く、永遠とわは今までで1番真剣な顔をしていた、プログラミングの知識は軽くあったがこれは何をやっているか分からない、作業を始めて5分ほどで完成した、前に作った物の流用で短時間で完成させた様だ、早速動作確認、まずはこれ「(縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ)」変換した結果「(何かあったか? 聞こえる?)」と表示された、おそらく大丈夫。


「これは成功してる…でいいのよね」


「そうやね、このお遊び程度のジャミングならこれでいいと思う」


 一体何が起こっていたか千夜せんやにチャットを送った、返って来た文章を先程と同様に変換すると「(なるほど、大体予想はしてた)」と返って来た、大丈夫と判断してその後も変換を駆使してやり取りを続けた。


 永遠とわがコードを書いている最中に千夜せんやもとある検証をしていた、東京には千夜せんやの経営する会社の日本支部がある、そこに対して通信を飛ばしたところ東京から外部に向けての通信に対してジャミングがされていた。


「なんでだ? なんの意味があってこんな事…」


「会長!」


 部屋の扉を蹴破るかの如く秘書が慌てた様子で入って来た。


「やめろよミシェル、びっくりするだろ」


「朝の日課よりも先に報告しろと命令です。Mr.イシズカが不審な動きをしていた日本大使館のシステムをハックして入手した映像です、こちらを」


「……なるほどね」


 そこに映っていたとてつもなく広い研究所、この場所は見た事ない、極秘の地下研究所なのだろうか。


「会長、これはもしかして…」


「あぁ、間違いない」


 見せられた映像に映っていたのは一部地域…東京を吹き飛ばす事が可能なミサイルだった。

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