第15話 あの日手放した幸福
「いいのあった?」
「うん、良さげなのあった」
小粒の雨が振る中、2人はファッションセンターしなむらを訪れた。当初の予定では薬局や
「あ、結構本格的に降り出して来たな」
降り注ぐ雨の光景と音を聞いていると心が浄化される気がする、流行りのASMRって言う奴かな?
「永遠、ちょうどレインコートあったからこれ着ましょう」
「あんがと」
ここで必要な物は調達した。次は薬局、レインコートを纏い外に出た。
「この雨なら血の匂いもかき消せそうだな」
「実際あいつらはどのぐらい鼻が効くの? そもそもなんで血の匂いに敏感って知ってんの」
「どれぐらい効くは分からん。知ってるのは人と化物の狭間で戦い続けた大切な友達に教えてもらったからだよ、なんでそんな能力があるか分からんけど嗅ぎ分けれるらしい」
「ごめん、変な事聞いちゃったわね」
「別に、辛さはお互い様だろ」
いつもならここで会話は終了していただろう、しかし今は違う、特段会話が弾んでいる訳ではないが距離は少しずつ縮まっている、それまで気になっていた事も自然と聞けるほどに。
「なんで金持ちの癖に普通のアパートに住んでるの?」とか、「なんで急に名前で呼び出したの?」とか。別にこれと言った理由はない、ただ大学から近くのアパートを選んだだけだし、名前は
彼女は少し昔の事を話し始めた、それは中学の頃。
元々かなり明るく活発的な少女だった、言いたい事をはっきり言える性格はその頃から変わっておらずその発言力、明るさ、男女問わず人気者だった。
事が起きたのは中学2年の夏頃からだった、彼女に嫉妬した1人の女とその取り巻きによってイジメが始まった、と言っても
内容としては至って簡単、
初めは本当にそれだけだった、
イジメが起こっている事実は知りつつも誰も助けようとはしなかった、ただ1人、
「ねえ、またアイツらにやられたんでしょ?」
「いいよいいよ、物投げられただけだし、ちゃんと帰って来たから聖良ちゃんが気にする必要なんてないよ」
「はぁ、
彼女は特別
「聖良ちゃん、たまには遊びに行かない? 土曜日とかどう?」
「私はいいけど…そんな事してるってバレたら余計大変な事になるじゃない、現にそうなった奴いたんだから」
「大丈夫だよ、辛い事があっても
しかしそれは続かなかった。
心配になった
家に着くなり早速インターホンを鳴らした。何も反応がなかったためもう一度鳴らした、応答したのは
「はい、志崎です」
「あ、こんばんは、私は由美ちゃんと同じクラスの聖良っていいます」
「聖良…せい…ああ! 由美がいつも話してる子ね!」
玄関が開き、由美ママが出て来た、中へ案内されると、「呼んでくるから座って待ってて」と言い階段を上がって行った。とりあえず問題なさそうだ、会えるワクワクが抑えられず足を上下に動かして今か今かと待っていた。
しばらくして由美ママが降りて来た。
「ごめんね聖良ちゃん、あの子まだ体調が良くなくてお顔がげっそりしてて見られたくないからお話しするなら扉越しがいいって言ってるわ、それでもいいかしら?」
顔が見れないのは残念だが仕方ない、今は
「ゆ〜み、久しぶり」
「聖良ちゃん、わざわざありがと」
「も〜心配したんだから」
「心配かけてごめんね、私は大丈夫だよ、少しずつだけど良くなってる、来週は行けると思うから心配しないで」
「ほんとに! それなら良かった、あとさ、授業で使ったプリントとかここに置いとくね、ほんとはもっと話したいけどあんまり長く喋ってたら体力使っちゃうから今日は帰るね」
「うん、やっぱり聖良ちゃんは優しいね、私も早く元気な姿を見てもらいたい」
会話は最低限しかしてないが元気そうです良かった、帰りに由美ママからお菓子をもらい帰って行った。来週の月曜が今から待ち遠しい、喜びの気持ちを抑えられず、鼻歌を歌いながら意気揚々と歩いた。
そして迎えた月曜日、いつもより早く学校に到着した、
「おはよう! 由美!」
椅子から飛び上がった
「落ち着きなよ〜ここは走っちゃダメだよ」
気持ちが凄く楽になった、また今日から
「ねぇ、永江さん、ちょっと私達と来てくれるかしら?」
声をかけたのはイジメの主犯、
言われるがままに着いて行く。場所は中庭、てっきり複数人で囲み体育館裏で武力行使でもするのかと思っていたが違った、まぁ群れているのは変わらないが。
「ねぇ、あの子可哀想だと思わない? あなたのせいで、あんなになるまで傷付けられてるなんて」
「良く今更そんな事言えるわね、小学生が覚えたての言葉使うんじゃないんだからもっと捻った事言いなさいよ、やっぱり頭悪い奴との会話は疲れるわ」
「おい、立場分かってんのかよぉ」
1人が脊髄反射の如く挑発に乗った、それに釣られて他の数人もそうだそうだと言わんばかりに粋りだした。それを見た
「ふふ、余裕の表情ね、けどそれはいつまで続くかしら」
「どう言う意味?」
「別に、ただあなたの大事な友達をこんなにも簡単に1人にしていいのかな? って思いましてね」
その言葉の意味が分からなかった、いつもの脅しみたいな物だと思い込んでいた、するとなにやら周りが騒がしい、中庭から校舎を見上げると、一箇所に人が集まっている、その場所は私の教室…
「な!?」
周りを囲む取り巻きを押し除け教室に向かい全力で走った、ただ
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