第14話 共生

 家にたどり着くなりご飯を食べた、時計の針は午後9時を指している。家を出てから戻って来るまで2時間ほど経過した。遠回りしながら移動した事を加味しても想定より遅くなった。途中までかなり順調だっただけに余計にそう思う。


永遠とわは早速持ち帰ったルーターを開封し接続した。聖良せいらは何も言わず倒れる様にぐったりとベットに横たわっている。流石の永遠とわも眠気が限界まで来ているが、目を擦りながらぐちゃぐちゃになった配線を繋ぎ直す、拝借したLANケーブルの存在を忘れるほど眠い。


なんとか接続する事に成功した。あまりに眠すぎてパソコンを起動する時間が物凄く退屈に感じる。カロリーバーを食べて眠気を誤魔化す永遠とわの後ろで幸せそうに寝ている聖良せいらを物凄く羨ましく感じる。


パスワードを打ち込みデスクトップを開く。するとすでに通知が一件来ており相手は兄貴だった、メッセージには電話番号が書かれている。携帯を取り出し番号を入力した。静かな部屋に着信音が響く、1コール、2コールと進むたびに鼓動が何故か早くなる、緊張してるのか? 身内に電話するだけでこんな気持ちになるとは思っていなかった。気持ちがそわそわした状態のまま着信音が止み兄貴が電話に出た。第一声が出ない、何を言えばいいか分からない、どこから説明すればいいか分からない。


「久しぶりだな、永遠」


 久しぶりだがとても聞き慣れた声、この人が永遠とわのお兄ちゃん、名前は如月千夜きさらぎせんや、年は26で5つ離れており20歳の頃にアメリカへ渡った。


「あ、久しぶり」


 何故だろう、自然と涙が溢れて来た、悟られぬ様に必死に涙を拭う。


「お前泣いてるのか? なんだよ、そんなに怖かったのか、それとも寂しかったか? どちらにせよ生きてくれてて嬉しいよ」


「まさか千ちゃんにもらったこのvpn機器が役に立つなんて思わんかった」


「だろ!? だから俺の言う事聞いてればいいんだよ、お前が俺について来ればこんな事にもなってなかったんだから」


「何回も言っとるけど、それじゃただの劣化にしかならん、それは嫌だ」


「変わってないな、安心したよ、母さんから聞いてるけどそっちでも頑張ってるんだってな」


「ぼちぼちだよ、それより今の状況そっちから確認できんの?」


「そうだな、東京は封鎖されてる、県境には政府の特殊部隊が取り囲んでるからそこに行けば出られるけど信用しない方がいい」


「なんで?」


「保護された後に検査のため一旦隔離されるんだけどさ、そっちの知り合いに手伝ってもらって施設のシステムをハッキングして内部をチェックしてんだけど今んとこ誰1人としてその施設から出た人がいねぇ、ぜってぇ何か隠してる」


「そうか、じゃあ別の作戦考えねぇと」


 千夜せんやは突然「へぇ〜」と関心した様子だった、腕を組みながら頭を上下に振る姿が容易に想像できる。


「なに?」


「意外だな、お前のことだから行って確かめるとか言い出すかと思ったよ、成長したな、それとも考えが変わる様な事でもあったか?」


「別に考えが変わった訳じゃない、俺だって現実を見る事ぐらいあるよ」


 千夜せんや永遠とわの言葉を聞いて更にニヤニヤした、にやけ顔が止まらない。お酒が進む進む。


それはさておきこれからどうするか話し合った。千夜せんやの言っている事が本当なら東京から出る事は事実上不可能、方法は一つしかない。


「ヘリコプター? 途中まで船で近付いてそこから飛ばすつもりか?」


「そう、場所さえ指定、なんならおおまかな範囲でもいい、それが分かれば俺が手配する、とびっきりの戦闘部隊をそっちに寄越す」


 永遠とわは机に膝をつきおもむろにマップを開いた。ヘリが降りれる場所を探すが見つからない、適当なビルに無理矢理降りてもらう事も出来なくはないが、明確に場所を決めておかないと上手く連携が取れない。


「テレビ局ぐらいか?」


「まぁそうなるよなぁ」


「ん? 何か問題ある?」


「別に問題はないんだ、けど場所の情報が取得出来ないんだよ、原因は分からん、お前や俺はなんとなくでも場所が分かるけどこっちの奴らがノーヒントで辿り着ける訳ないからな」


 東京だけ正確な場所が取得出来ないらしい、千葉や神奈川、埼玉や山梨といった隣県は問題ないが何故か東京だけ分からない、永遠とわも確認してみたがマップこそしっかり表示されるが経路案内がバグっている。東京から外に通信が出ない、或いは入らないと予想していたが、この挙動のおかしさ、千夜せんやの情報、これまでの話を聞く限り本当にその説が濃厚になる。


「なぁ、もし政府が何か掴んでるとしたら外から来たヘリコプターを無条件でハイどうぞなんて事するか?」


「………」


「千夜?」


「悪い悪い、他に誰かいるのか? 音聞こえんだけど」


「あぁいるよ、たまたま出会っただけの関係だけど」


「男か?」


「違う」


「マジかよ女! 可愛いか?」


「美人だよ、千ちゃんは好きなタイプかな、顔はいいけど悪役令嬢みたいな正確しとるし、ハハ」


 永遠とわは話に夢中になりすぎて後方から迫る危険に気付かなかった、ニヤついた顔で油断している永遠とわに鉄拳が降り注いだ。「イテッ」と言う声と共に振り返ると先程まで寝ていたはずの聖良せいらが立っていた。


「何すんだよ〜 たんこぶ出来たわこれ、悪役に怪力足したらただのギャングだろ」


「電話の相手はあなたのお兄さんよね? 悪役令嬢なんて訳の分からない事ゆうのやめてくれる? さっきはなんとなく許したけど次はないからね、あと痛いなら絆創膏でも貼ってなさい」


「ハハハ、楽しそうだな、まずは自己紹介、俺はそいつの兄、如月千夜きさらぎせんや、歳は26で今は彼女いないからいつでも歓迎するよ」


「私は永江聖良ながえせいら。コイツがあなたを凄い頼りにしてるからどんだけ心強いかと思えばただの変人じゃない、兄弟揃って変人これとか最悪なんだけど」


「まぁそれは俺たちのチャームポイントだから気にするな、所で話はどのぐらい聞いてた?」


「ヘリコプターでーとか場所が分からないーとかかな」


「じゃあ話は早い、まずはこっちでなんとかして位置情報を取得して部隊を動かす、それまでは遠足の準備をしててくれ、移動時間はどのぐらいか分かるか?」


「だってよ、あんた分かる?」


「ゆうて知ってるテレビ局一個しかないんだよな、上野ここからなら1時間30分とかじゃないか?」


「テレビ東京?」


「そう」


「分かった、場所はテレビ東京かその周辺にする、なるべく急ぎで動くから2人もいつでも動けるように準備しててくれ、それじゃあ何かあればすぐ報告する、ちゃんと飯食って寝ろよ」


 とりあえず連絡の手段が取れた事に安堵の表情を浮かべた、今までのしかかっていた責任が一気に軽くなった気がしたから。今後を想定して早速遠出に必要な物を確認した。日持ちする物が沢山あるため食料は問題ない。考えるべきは怪我をした時だろう、包帯やガーゼぐらいはあるが止血剤なんかがあればより安心できる。


「聖良は医学部の友達とかいるか?」


「他の大学でいるにはいるけど…まさか薬局から持ってこようなんて馬鹿な考えはやめなさい、ちょっとだけ知ってるけど齧った程度の知識を持ってる奴が1番危ないんだからね」


「分かった分かった、どちらにせよ1回行ってみようぜ、湿布とかテーピングとかあって困る事ないしワセリンとかあってもよくね? 傷口に直接ガーゼやら包帯もなんか嫌やし」


「それもそうね、じゃあ朝から動きましょう、今度は起こさないでよね」


「はいはい」


 ソファに横たわった永遠とわは急激な眠気に襲われ瞼をゆっくりと閉じた、思えば昨日はちゃんと寝ていない、生きる事に必死すぎてこんなにも疲弊していたなんて気付かなかった。「わ…」「永遠…」聖良せいらの呼びかけに体がビクッと反応し目を開けた。


「どうした?」


「あんたって怒んないよね」


「どうした急に」


「…あんたも寝るならベットの方がいいでしょ? 狭いけどここ空いてる」


「え、それもしかして誘ってる? しばらくヤッてないし張り切っちゃうなぁ」


「な、ば、ばバカじゃないの! 近づかないで変態! 床で寝てなさい!」


 赤くなった顔を服の襟で覆い背中を向けて、横になった。


「あれ? もしかして処女か?」


「…………死ね」


「図星? ごめんごめん、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 お互い背中を向けて横になる、2人で布団を分け合い狭いベットの上で眠りに就いた。


「……ばか」

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