第13話 敵の敵は…

 あれから永遠とわに導かれるままにここまで来た、来た時と同じ様な監視室、奥の扉は店内に入った時にあった園芸用倉庫とは別の倉庫に繋がっている。永遠とわは部屋に置いてあるパソコンを操作している。


「ねぇ、さっきすごい銃声聞こえたけどあの2人はもう…」


「だろうな」


「よく分からない、こうなるって分かってた訳? あなたの動きからしてたまたまとは思えないんだけど」


「まぁそうだな、これ使ったんよね、上手くいってよかった」


 永遠とわは上着のポケットから車のスマートキーの様なものを取り出した。


「なにそれ」


「コイツはシャッターを開けるための装置、ちょうどあの化物が来た方向にそのシャッターがあってお前が捕まってるのを見てすぐに気付かれん程度に開けた」


「ふーん、2人を助ける選択肢はなかったのよね?」


「まあね、話し合い出来なさそうやしそもそもメリットなさそうやったし片付けて貰えてよかったわ、他人の死なんてどうでもいいし」


「そう…なのね」


 淡々と語る如月きさらぎに恐怖を感じた、とにかく今は黙って言う事を聞いていよう。


「よし! やっと見れた! ごめんごめん、時間かかった」


「これは…倉庫の映像?」


「そこのやつやね、一応確認」


「これ暗視カメラよね? 調達したライトがあるとは言え暗闇を歩くのは緊張するわね」


「だよな、電気のスイッチどこやっけ」


 永遠とわ聖良せいらは部屋の中を探し回るが見つからない、もう一度パソコンを確認しようとした時、どこかの扉が勢いよく開く音、そして化物の呻き声が聞こえて来た。「仕方ない、行こう」カバンを持ちそれぞれライトを片手に一寸先も見えない倉庫へと足を踏み入れた。


〜〜〜〜〜〜


「イッテェ…あの野郎、テンパりやがって、まぁほっとけば止まるだろ、それにしてもさみぃ」


 純平じゅんぺいは園芸コーナー用の倉庫に身を隠していた。銃声、悲鳴、匂い、それらの要素が重なり外には夥しい数の化物が待機しているため正面は使えない、裏から出るしかないが今はまだ動く時じゃない、店内にはかなりの数の化物がいる、様子を見つつ数が少なくなれば突破する、そのために今はこの冷気が充満する倉庫に身を潜め時が過ぎるのをじっと待っている。


「あぁさみぃ、あの窓閉じてぇけどあの高さは無理だな、我慢するしかねぇか」


「それにしてもヤバい奴に絡んじまったなぁ、どうやったか知らねぇけどいつの間にかシャッターを開けてやがった、それに別れ際のあの顔、人間じゃねぇぜありゃあ」


 バタン! と勢いよく扉が開いた、「うぁぁ」と言う声、奴らが倉庫に入って来た。積み上げられた段ボールから様子を伺った窓から差し込む月光のおかげシルエットぐらいは見えた。そいつはしばらくその場に立ち止まったのちにこちらの方へ歩いて来た。


 「ツイてねぇぜ」


純平じゅんぺいは気付かれない様に足音を殺し別の場所に移動し再び様子を伺った、すると同様にしばらく立ち止まったのちにこちらに向かい歩き出した。


「クッソ! どうなってんだ!」


純平じゅんぺいは焦りつつもまだ冷静さを残している、次はあえて最初にいた所へ移動した、当然化物もそこにやってくるがそれは予想通りで段ボールの死角を利用し上手く隠れる、奴は何故か一度立ち止まるため不意をつくチャンスは充分ある。


奴の姿は見えず足を引きずる様な音を頼りに、積まれた段ボールの中心を軸に化物と対角線を位置取る事を意識し反時計回りで移動した。


「そろそろだな」


足音が聞こえなくなった、ここがチャンス、大きく息を吸い込み覚悟を決め飛び出した、しかし化物姿はそこにはない…


「どこ行きやがった!」


 恐怖と緊張で頭が上手く動かなくなった、頭が真っ白になる感覚を初めて味わい体中から嫌な汗が吹き出る、冷気が体を包み体温が奪われる。一度冷静に額の汗を拭い頭を整理した。


「い…ぺい」


「ひっ!?」


 突如耳元で誰かに囁かれた、驚きのあまり声も出ない。下を向いているため顔は確認できないが服装からしてそれは麗矢れいやに間違いない。


「お前、生きてたのか! ややこしい奴だな、出てくるなら普通に出てこいよ、へへ! でも見直したぜ、まさかお前にそんなガッツがあったなんてな」


 肩を2回叩き安堵の表情を浮かべた。安心したのも束の間突如激しい痛みに襲われ苦痛な表情を浮かべた。一瞬の事で何が起きたか分からなかったがどうやら左耳を食いちぎられた。コイツは純平じゅんぺいの知る麗矢れいやではない、先程まで理性と本能の狭間で奮闘していたのだろうがもう人ではない。


間髪入れずに再び襲いかかって来た。痛みを紛らわされるために歯を食いしばり突進、積まれた段ボールの山が崩れるほどの威力で吹き飛ばした。化物れいやは段ボールの下敷きになり身動きが取れないが、崩壊した音に反応した化物達はゾロゾロと倉庫に入って来た。「嫌だ! 嫌だ!」冷静になる余裕なんてない、助かりたい、ただそれだけしか考えられない、奇跡を求めて倉庫の中を走り回る。


すると本当に奇跡が舞い降りた、外に繋がる扉が! 鍵も内側から開けられる! 手が悴み感覚もなくなって来た、手こずりながらも扉を開けた。


久々の外の空気、空は雲ひとつなく大きな満月が姿を見せている、真夏の太陽を直視した時の様に反射的に目を逸らすほどの眩しさを感じた。


「これで俺は自由…だ……」


 化物は確かに音、動き、暗闇なら光に反応する、しかしそれ以上に大切な要素をじゅんぺいは知らない、化物を誘き寄せる1番の要因、それは匂い、生存者の新鮮な血の匂い、不運にも倉庫の窓から外に流れた血の匂いを嗅ぎ分けここに集まって来た。止血をしなかった彼に生き残る選択肢などはなから残されていなかった。その事実に心が破壊された純平じゅんぺいは膝をつき天を仰いだ。


「は、ははは! ハハハハハ! これが話題のVRか? なんて上手く作られた仮想空間なんだ! 素晴らしい! さあ! もういい! ゲームは終わりだ! 早く装置を外してくれ! ハハハハハ! ハハハハハハハ!!!」


 噴水の如く噴き上がる鮮血、真紅に染まる満月を最後に息絶えた。


〜〜〜〜〜〜


「聞こえた? 多分さっきの奴らだよね」


「意外と長生きしたな、裏から出て10分ぐらいは経ってるか」


 倉庫から店の裏から脱出した2人は、秋の音が流れる夜道を歩いていた。


「如月、あんたはどこまで計画通りの動きだったの? 占いとか信じないけど今なら信じれそうなぐらい上手く行きすぎてる」


「別に計画通りに動いたわけじゃねぇよ、もしものために備えとっただけ」


「今思えば初めからおかしかったわね、電子ロックを解除して中に入った時とか、謎に突っ立ってたでしょ」


「あぁ、あれな、初めから店内システムにアクセス出来たんよね、つまり誰かがハッキングしてあそこに繋げばいつでも誰でも扉を開けれる状態にしとった、それで念の為って感じ」


「でもそんなまどろっこしい事しなくても私を置いていけばよかったじゃない、私がいない方があなたは安全なんでしょ」


 その言葉に少しドキッとした、心を読まれたと思った。もしかして出発前にやんわり断った事に対して感じた事なのだろうか。


聖良せいらの様子を伺おうとしてもそっぽを向いて目線を合わせようとしない。これまでの経験からなんとなくこの女の性格は分かる、思い切って自身の胸の内を明かした。


「聖良のゆう通りやね、1人の方が楽やし安全、聖良はその逆、誰かに守ってもらいたい、どうせ自分を守るのは当然とでも思ってるだろ? 美人だし尚更釣れるだろうな」


その言葉を聞いてさらにムスッとした。


「そうね、その通りね、私はあなたを利用してるだけ、分かってるなら早く捨てなさいよ」


「そう、それでいいんだよ、お前は勘違いされやすいんだろうな、ただ素直なだけで」


予想していない答えが帰って来てその場で足を止めた。


「お前は自分の事をよく知ってる、弱い自分を護衛おとこに守らせる、利用する。でもさ、それ普通じゃないか? むしろこの状況下で自分の力を見誤って死ぬ馬鹿や正義感振り翳して人助けしようなんて奴より信頼出来る、だから俺が死ぬまでずっと利用すればいい、これからもそのままの聖良でいればいいよ、綺麗な名前貰ってるけど…お前は悪役令嬢みたいなもんだからな」


 これまで見たどんな物よりも永遠とわの笑顔は輝いて見えた、考えるよりも先に体が動く、永遠とわの敷いたレールを辿る様に追いかけた。


「ちょっとあんた、名前教えなさいよ」


「名前? 知ってんじゃん」


「下の名前よ、これから私の召使いになるんだしょ? だったら名前ぐらい知っておかないとダメでしょ」


「とわ…永遠えいえんと書いて永遠とわ


「いい名前じゃない、これから未来永劫、私に利用される人としてはピッタリね」


 月明かりが照らす薄暗い夜道を歩く、これまで永遠とわの背中に隠れる様に歩いていた聖良せいらはこの時初めて永遠とわの横を歩いた。

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