第11話 始まりの夜

 時刻は午後7時、辺りはすっかり暗くなった、予定通りホームセンターに向かう最中。


永遠とわが出発前に丸腰では心許ないため武装して行こうと言い、それには賛成だがまさかこんなおっかない物を持っているなんて思ってもなかった。


出発前〜〜〜


「ほらこれ持って行きな」


 永遠とわがクローゼットから取り出したのはなんと軍用の小銃、それはこの騒ぎで東京に派遣されて来た自衛隊が使っていた物、家から音だけ聞いていたが奮闘虚しく全滅してしまった事は分かった、その時に散歩がてら死体から拾って来た物で詳しく分からないがよくアサルトライフルと呼ばれる物だと思う。


「おっも! こんなの無理だって、持ってても使えないって」


「まぁそうだよな、ならこっちの拳銃使いなよ、1発だけ入っとるけ自分の判断で使いな、使う時はここをこうやって引くだけの奴だから」


「俺も拳銃と、一応その小銃も持っていく」


と言った出来事があった、拳銃を渡されたがそれを使う時は死ぬと思った時だけ、無闇に使うとかえって状況が不味くなるだけと念押しされたがはなっから使うつもりなんてない。


「そう言えばそれ何持って来たの?」


「これか? 普通のパソコン、もしもの時のための保険だよ」


 聖良せいらは意味を理解できなかったが、すぐにその意味を理解する事になる。


 道中で化物に見つかっては逃げて見つかっては逃げてを繰り返し、倍の40分ほどかかったが目的のホームセンターまでやってこれた、遠くからでも何体か人影が確認できた、さらに近づき確認すると予想よりもはるかに多くの化物がここに集まっていた、しかし聖良せいらの言っていた通りいるのは化物だけ、冷静にコイツらを掻い潜れば何も問題ない、幸いここの駐車場はかなり広いためそれほど難しい話ではない。


 何も問題なく入り口までやってこれた、しかしここで問題が1つ、入り口が開かない、自動ドアなので電気が通ってないと動かないのは当然だが聖良せいらが来た時は初めから開いていたらしい、持って来た拳銃を使えば無理矢理開ける事は可能だが流石にそれを実行するほど頭のネジが外れてる訳でもなく戦闘狂でもない、何かを思いつた永遠とわはある場所へ向かった。


 やって来たのは入り口から見て西側にある園芸コーナーに物を搬送するためのフォークリフトが置いてある倉庫、大きなシャッターの横にある扉は電子式であるためハッキングすれば無理矢理開けられるかもしれない。


「ねぇ、電気が通ってないなら結局無意味じゃないの?」


「ここのホームセンターは何かしらの非常事態で停電した時に最低限のシステムを動かすための非常電源が動いてんのよ、電源を切ったとしても裏で電気が流れてるならワンチャン…」


 ものの数秒で扉が開いた。


「えぇ…嘘でしょ…なにあんたキモ」


 早速中に入ろうとしたが、トイレでも我慢しているかの様な格好で永遠とわはその場から立ち上がろうとしなかった。


「なにやってんの? 早く行きましょう」


「ん? あぁ悪い悪い、行こう」


 中に入るとそこは監視室の様な見た目の部屋だった、永遠とわが言うにはここは園芸コーナーをメインに監視するための場所、奥には二つの扉、電子キーが付いた左の扉は倉庫に、右の扉は店の中に繋がる。


「あんたってなんでそんなに詳しいの」


「元々ここでバイトしてたんだよ、1年の頃から2年の半ばぐらいまでかな、時給めっちゃいいぞここ」


 意外だった、彼がバイトをしているなんて思ってなかった、成金のボンボンだと思っていた、頭もよく運動も出来て実家が金持ちで楽しい人生を送るハイスペックな人間だと聞いていたが、聖良せいらの中で少しずつ永遠とわの人物像が新たに形成されていく。


「よし準備出来た、目的の物だけ手に入れて早く帰ろう、長居は体に毒やから」


 カバンから懐中電灯を取り出しフロアに繋がる扉を開けた、開けた瞬間強烈な匂いが2人を襲う、入り口が閉じられていた様に他の扉もおそらく完全に閉じているのだろう、換気などされる事はなく中で匂いが酷く充満している。


「尚更早くでらないけんね」


「ハンカチかなんか持ってない?」


「あるよ…はい」


「ありがと」


「ついて来て、売り場は分かってるから」


 真っ暗な店内を懐中電灯で照らし進む、威勢よく付いてくると公言した聖良せいらも内心かなり怖がっている、離れない様に永遠とわのカバンをしっかりと握りしめているのが証拠、怖いのは誰でも同じで永遠とわも常に恐怖と戦っている。


「よし、そろそろだな」


「如月…私もなにか出来ないかな? 付いて来て全部あんたに任せて結局おんぶに抱っこされてるだけなんてダサすぎる」


「居てくれるだけで俺は心強いけど…どうしてもって言うならライトが欲しい、この懐中電灯みたいなのじゃなくてもっと小さくて取り回しがいいやつ、よくドラマで警察が使ったり海外の特殊部隊が使ってる感じのやつ、なんなら棚はこの辺のはずだから作業を分担しよう、俺はルーターを探す、永江ちゃんはそっちを頼む」


「分かった、任せて」


 2人はここで一旦別れた、聖良せいらは携帯のライトを使用して探索を始めた、永遠とわはそのまま一直線に電気コーナーに向かった、ルーターのある棚に向かう途中にもしもの時を考えてLANケーブルも幾つか拝借した。


「ルーターは…ここか、どれがいいんだ? ウミハかバッフロー辺りかなぁ」


 一つずつ確認していくのは面倒なのでとりあえず他のルーターと比べて値段が段違いに上がっている物を幾つか取り出し一度床に並べた。


「これと、これは対応してそうだな、ルーターの良し悪しなんて俺には分からんしどっちも持って帰るか」


 あえて一つを選ぶ事もないだろう、永遠とわはウミハとバッフローの計2台を持ち帰る事にした、誤算だったのは思いの外ルーターのサイズがデカかった、口に加えた懐中電灯で手元を照らし2つのルーターをカバンに押し込みあとは聖良せいらと合流するだけ。


…………ッ


「誰だ!?」


 永遠とわ左側から微かに音がした、素早く拳銃を取り出し音の方を照らした。


「いいねいいねぇ〜いい武器もん持ってんじゃんかよぉ〜なぁ? 俺によこせよ! 絶対俺の方が似合うからヨォ」


「あいにく俺は見ず知らずの奴にこんな物騒な物をすんなり渡すほどお人よしじゃないんでね」


 1人の生存者が現れた、聖良せいらが言っていたここらに現れるグループ、もしかしてコイツがその一員なのだろうか、どちらにせよ話は通じそうにない。


「ここはアンタの縄張りか? それなら悪かった、別に争いに来た訳じゃない、邪魔なら今すぐ帰る」


「だってよ! どうする?」


「人の住処に侵入してタダで出て行こうなんて上手い話はないよなぁ?」


 もう1人の仲間が現れた、180cmほどで体格もいい大男が現れ前後を挟まれる形となる、別に今ここで射殺してしまっても構わない、しかしそれは不可能、ゲラゲラと笑いながら近づく男に聖良せいらが捕まっていた、さらに左手には聖良せいらから奪った拳銃を所持している。


「別に帰りたければ帰ってもいいぜ! ただしそのゴツイ銃とこの女を置いていけ、それで交換してやるよ!」


「そうゆうことだからよろしくな、ゲヘヘヘ」


「おっと! 動くな! お前がその気ならコイツとお前を今ここで殺してもいいんだぜ!」


 大男は銃口を聖良せいらの頭に突き立て涎を垂らしながら下品な笑い声をあげている。


「どうせなら外の奴らの餌になってもらうのもアリじゃないか? ゲヘヘヘ」


「ほんととんでもねぇクソどもだな、協力し合えばお前達にとってメリットになると思うけど? そんなに死にたいか?」


「あん? お前自分の立場分かってんのかぁ? 変な気を起こす前にその手に持った拳銃はその場に置くんだ、そして早くそのメチャクチャイカしてる小銃を寄越しな!」


 永遠とわ聖良せいらの方を見た、怒りのこもった眼差しと支配による恐怖で体が震えている、早く彼女の安全を確保しなければならない、そのためにはまずコイツらの警戒を少しでも解く事を考えた。


 永遠とわはその場にしゃがみ所持していた拳銃と懐中電灯を置き再び立ち上がった。


「お、意外と話の分かる奴なんだな、よし、次は俺にその銃を渡せ! ゲヘヘヘ」


 言われた通り小銃を渡そうと小柄で気持ち悪い笑い方の男に近寄り手渡し、男は舐め回す様に小銃を見つめた、永遠とわは床に置いてあるカバンを拾い帰宅するためにその男から後退りし離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る