第10話 共同生活

 小鳥のさえずる音、カーテンの隙間から差し込む光、雲一つない快晴で気持ちのいい朝がやって来た、しかしその心地よい朝もひとたび外を見れば虚無感に襲われる、これまでの出来事は全て夢であって欲しいと本気で思いたくなる。


ベットから体を起こした聖良せいらは特に何をする訳でもなくただぼーっとしていた、しばらくすると椅子に座ったまま寝ていた永遠とわも目が覚めた。


「ふぁぁ…あ、起きてたんだ、おはよう」


「あんたずっとそこに座って何してたの?」


「えっとね、兄貴と連絡取れないか試してだけ」


「お兄さん? 携帯使えばいいじゃない、電話ぐらい繋がるでしょ」


「電話番号知らん、兄貴は仕事用の携帯しか持っとらんけ連絡する時はいっつもパソコンなんよ」


「そう言えば聞いた話だとあんたの車ってお兄さんのらしいじゃない、何者なの」


「うーん…開発者だよ、IT関係のね、ソフトウェアとか色々、今はアメリカにいる」


「ふーん…海外だから繋がらないわけ?」


「いや、海外だからとかじゃないかも、なんか携帯もおかしいし」


「おかしい事ある? した事あるから分かるけど電話は繋がるしメールも送信出来るわよ」


「ちなみにその相手は東京にいる人?」


「そうだけどそれがどうしたの」


 永遠とわは携帯を取り出し何かを熱心に確認し始めた、口元を手で覆いながらしばらく悩んだのちに誰かに電話を掛けたがすぐに電話が切れた、誰に電話したのか聞こうとするよりも先に永遠とわ聖良せいらの電話番号を聞いて来た、咄嗟の事に驚いたがあまりに真剣な顔で聞いて来るので素直に教えた、永遠とわはすかさず聖良せいらに電話をかけると今度はすぐに繋がった。


「やっぱりおかしくね? 実家のお母さんに電話しても繋がんなくてお前に電話したら繋がる」


「あなたの実家が何処か分からないけどそっちも同じ状況だったりしないの?」


「実家は福岡なんやけどこれ見てん」


 永遠とわはパソコンの画面を見せて来た、画面にはヤホーのトップ画面が表示されている。


「これが何?」


「検索は出来んし、ヤホーニュースを開いても内容が表示されん、でもトップ画面から見出しだけは見れる、そんでここ見てみてん」


 永遠とわが指差した記事の見出しにはこう書かれている、(未知のウィルス蔓延?東京都を隔離都市に指定)、他にも人を食い殺す怪物と言った見出しもある。


「な? これがほんとの情報かは知らんけど本当ならあっちは通常通り、電話は即切れやしそもそも回線が終わっとる、なのにお前とは電話が繋がるって事は東京に入ってくる通信が遮断、逆の可能性もあるか」


「こんな状況なんだから上手く通信出来なくてもそんなもんじゃないの?」


「まぁそうなんだけどね…vpn試してみるか」


「v…何それ」


「仮想の専用線、簡単に言えばコイツを使えば直接兄貴の住んでる家のネットワークに繋がる、問題は機器がちゃんと動くかどうかだな」


 永遠とわはおもむろに立ち上がりクローゼットを開けて何かを探し始めた、ガシャガシャと音を立てて奥から何かを引っ張り出した。


「何それ」


「コイツがvpnを使うための機器、兄貴が海外に行く時に貰った、ただのおふざけのはずやったのにまさかこんな形で使うとは思わんかった」


「どうやって使うの?」


「知らん、vpnとか使った事ないし、設定は兄貴がガチャガチャしたらしいしルーターとpcを繋げば使えるらしい、でも多分無理だと思うんだよな」


 機器を接続し何やら操作して再びお兄さんに連絡を取ろうとしたが、先ほど永遠とわの言った通り繋げたからと言って何も変わらなかった。


「だよなぁ そもそもルーターがvpnに対応してないんだよなぁ」


 これからどうするかは今から考えるがその前にお腹が空いたのでご飯を食べる事にした。


 昨日持ち帰った水を使いカップラーメンを食べる事にした、電気ケトルで沸かしている間に永遠とわはずっと気になっていた事を聖良せいらに話した、面識はないはずだが名前と顔をしっかり覚えていた事、あと何故高圧的な態度を取るのか。


「あなた有名人だから名前と顔ぐらい嫌でも耳に入ってくるのよ…噂も全部ね」


「有名って俺が? なんもしてないけど」


「大学に高級車で通学なんて話に上がらない訳ないでしょ」


「ああ、なるほどね、それはそうと君の名前は? お前とか君とかゆう呼び方はなんか嫌だし」


「永江よ」


「ながえ?」


 どこかで聞いた事のある名前だった、脳みそをフル回転させて過去の記憶を遡るとちょうどお湯が沸いたのと同時に思い出した、彼女は去年大学で開かれたミス•キャンパスで2年生にしてミスキャンに輝いた永江ながえだった、若菜わかなに無理矢理連れて行かれて見学したのを思い出した、興味はなかったので誰が出ているか全く記憶になかったが1人だけとても印象的な人がいた、ショートボブでアッシュグレーに髪を染めた1人の女性、遠くから見ても分かるほど綺麗な髪質だったためそれだけは覚えていたがまさか目の前にいる女性が本人だとは気付かなかった。


「へぇ〜まさかミスキャンの永江ちゃんだったとわねぇ〜今は青っぽい感じなんだね、ブルーアッシュかな? 髪綺麗だよね」


「…無駄話はいいから早くお湯入れて来てよ」


 彼女はムスッとした顔で話を終わらせた、怒っていると言う訳ではないが彼女にとってあまり好ましくない話題だったのだろう、やっとまともな会話が出来たんだ、変に刺激するのはやめよう。


 カップ麺にお湯を注ごうと立ち上がった時にもう一つの質問を思い出した、何故そんなに高圧的なのか、そちらは答えを聞いてない、しかし今はそのままにしておこう、そう思ったが無意識のうちに口が動いてしまった、咄嗟に誤魔化そうとしたが永遠とわよりも先に聖良せいらが口を開いた。


「別にそんな態度とってるつもりないわよ……でも如月が嫌ならいつでも追い出して…私だって感謝ぐらい……」


最後の方は聞こえなかったが、少しずつ彼女の事を理解しはじめた気がする、今は利害が一致している程度の関係かもしれないがこれからお互いの事をもっと深めて行きたい、自然と笑みが溢れた。


そんな永遠とわを見た聖良せいらは不思議な気持ちに包まれた、なんでも思った事を口にする聖良せいらはよくトラブルを作り出す、直さないと行けないのは理解している、しかしそんな自分を受け入れてくれる人がもしいたら、この人ならもしかしたら……そうやって自分に言い聞かせて結局何も変われてこなかった。


 その後は昨日と同じく会話をする事はなくひたすら麺を啜っているだけだった、食べ終わった頃に聖良せいらは先程永遠とわが言っていた事を思い出し携帯を確認しはじめた、確かに他県にいる知り合いから誰1人として連絡は来ていない、特段知り合いが多いと言う訳ではないがあの日の前日まで連絡を取っていた従兄弟からも一切連絡が来ていない事を考えると永遠とわの言っている事は当たっているのかもしれない。


「如月、これからどうするの? 毎日コソコソご飯食べて無くなったら補充して…流石に限界あると思うんだけど」


「分かってるよ、だからvpnに対応したルーター探しに行こうかなって思ってる、20分ぐらい歩いた所にあるホームセンターに売ってるの知ってるし、便利な世の中でよかったよなぁ」


 すぐに準備を始め、聖良せいらには留守番してもらう様に頼もうとしたが聖良せいらが言うには昼間に行くのはやめた方がいいらしい、なんでもあの辺りはすでに1つのグループが占領していたとの事、聖良せいらは元々グループで行動していたがその相手グループと抗争が起こり最悪な事に死人も出たと言う、4日程前の出来事なので今もそうだと言う確証はないが少しでもリスクは減らした方がいいと提案した。


行くなら夜がいいとの事、実際にその抗争が起こった日の夜に同じ場所を見に行くと見張りがいる訳ではなかった、その隙を見てホームセンターから食料を物色して来た経験がある。


これらの話を聞き今日の夜に行動すると決めた、聖良せいらにはここで待っている様に提案したが考え事をしたのちに自分も一緒に行くと言い出した、正直1人で行く方が安全な気もする、機嫌を損ねない様にやんわり断ろうとしたが聞く耳を持たないわがままお嬢様は「時間になったら起こして」と言いベットに横たわった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る