第8話 我が儘な悪役令嬢

 あれから1週間が経った、大学の外は予想以上に地獄で至る所で銃声や悲鳴が聞こえてきた、正常な判断が出来ない人達が多く、相手が化物であろうが人であろうが関係なく銃を乱射している人もいた、むしろ化物よりもそちらの方が怖かったぐらいに。


 永遠とわは自宅で息を潜め電気も付けず何もせずただじっとベットの上で座っていた、しばらくは銃声、逃げ惑う人の声、サイレンの音が鳴り響いていたが、3日ほど経つと次第に音は消えていき1週間経った今では何も聞こえない、唯一聞こえてくるのはえさを探し彷徨う化物の呻き声だけだった。


ぐぅぅぅ……


「お腹すいたなぁ」


 この1週間の間永遠とわは何も口にしていない、元々食材を買い込んでおり今の所ガスや水道はまだ止まっていないため料理をする事は可能、しかし音は立てたくない、弁当はあるにはあるが肉は食べる気にならない、頼みのカップ麺だが、水が汚染されている可能性を考えてしまったらそれも怖い、結局お茶ばかり飲んでいた。


「はぁ………」


 このままでは不味いのは分かっている、考えがない訳ではない、近くにあるドラッグストアに行けばそのまま食べれる食料は沢山あり水も大量にあるだろう、問題はいつ行くか、当然化物はその辺りを彷徨いている、時間が経てば人が多い場所を求めて移動していなくなるかもしれない、しかしその前に食料を他の奴に持って行かれたら元も子もない、正直1人なら奴らを掻い潜るのはそこまで難しい話じゃない。


 色々考えた結果永遠とわはすぐに行動した、一度キャンプに行った時に使ったバックを背負い外に出た、時刻は昼を少し回った頃で外はまだ明るい、夜ならこちらも見つかりにくいかもしれないが、奴らが暗闇でどれだけ目が効くか分からないため夜を待たなかった。


 予想していた通り外にはそれなりの数の化物がいた、遠くにいる奴らはこちらに気付いても追ってこない、おそらく動いている物に反応しているだけで人かどうかの判断は出来ていない、近くの奴らも無視して走り去れば問題なく振り切れる、特に問題が起こる事はなく目的のドラッグストアまで難なく来れた、すると人の声が聞こえて来たため近くにある大破した車に身を隠し様子を伺った。


「急げ! 止まったやつからやられるぞ!」


「余裕余裕! こんな奴らどうって事ねぇよ! ハハハ!」


 入り口の方から複数の人達が高らかに勝利宣言をしながら走り去っていった、その声に反応して近くの化物達はその集団にノロノロとついて行った、それは永遠とわにとって数が減ってただただ幸運だった。


「バカそうだなアイツら、絶対死んだわ」


 予想通りあの連中が引き付けてくれたおかげで店内には化物がいなかった、あくまで入り口から見える範囲の話なので油断はせず中に入った。


 ざっと見て歩いたが動いている化物はいない、倒れている死体はこれから動くのかどうか分からないので気は抜けない、周りに注意しつつ当初の予定通りカロリーバーや菓子パン、ゼリーやパックのご飯、そして水を大量にバッグのに詰めた、なんとも言えない罪悪感に包まれるがこの状況なら仕方ない、素早く商品を詰め込み帰ろうとした時ふと思った、怪我をした時の事を考えて包帯など手当て出来る物があった方がいいのでは? そう考えて最後に応急用具の棚に向かった。


「あ、懐中電灯あんじゃん、うーん…かさばるなぁ…出来ればもっと小型でハンディタイプみたいなのがあればいいけ……」


「うぅぅあああ…」


 入り口の方から化物の声が聞こえてきた、外にいた奴らが何体か入って来たのだろう、とりあえず手にした懐中電灯をバッグに無理矢理押し込み応急道具の棚に向かった。


〜〜〜〜〜〜


 永遠とわが店内に入ってくる少し前、2人の女性が従業員用の休憩室に避難していた、その内1人は奴らに噛まれ足も怪我しているため動く事すらままならない。


「ゴホ! ガハッ!」


「大丈夫? 落ち着いて」


 吐血し体を震わせるこの女性は溝口美智子みぞぐちみちこ、命からガラここまで逃げる事は出来たが先は長くない。


「美智子、寒いの? 私の上着使う?」


「ううん、大丈夫だよ、聖良ちゃんは気にしなくていいよ」


「……そうだ! お腹すいてない? 冷蔵庫あるし何かあるかも」


 聖良せいらは冷蔵庫の中を覗いてみた、しかし中には何も入っていない、他の棚や引き出しを全て調べてみたが何もなかった。


「あぁくそ、そう都合よく行かないわね、あぁどうしよう、落ち着け私…絶対助け出すのよ」


「はぁ……はぁ…」

(私のために…あんなに必死に……私がもう死んでたら……死んでたら…)


 椅子に座り頭を抱える聖良せいらに、美智子みちこは絞り出したような掠れた声で言葉を発した。


「え? ごめん聞こえなかった、どうかしたの?」


「水…飲みたいなって思って、フロアの方に行けばいっぱいあるから……私のわがまま、聞いてくれる?」


「当然よ! 大丈夫、私に任せて! すぐに取ってくる!」


 聖良せいらは体を震わせる美智子みちこの頭を優しく撫でてから部屋を出て行った。


「これでいい…これで……」


 急ぎつつもなるべく音を立てないように進む、化物に注意するのは勿論だが、ここに逃げ込む際に後ろから集団の声が聞こえてきた事が気になる、その集団もここに食料や水の調達に来たのだろう、遭遇して取り合いなんかになったら面倒臭い、こんな状況になってもなお1番恐ろしいのは人間関係の拗れ、身を持って体感したからこそ聖良せいらは今ここにいる。


 ゆっくりと扉を開きフロアを除いた、とても静か、警戒は怠らずに飲料コーナへ向かい500mlの水を手にしてついでに何か食べれる物がないか探した、適当にカロリーバーを上着のポケットに入れた、美智子みちこの事を考えその他にゼリーなどなるべく顎の力を使わない物を選んだ。


「よし、とりあえずこのぐらいでいいわ、そう言えばここのドラッグストアってサポーター売ってたはず、それを使えば今より楽に歩けるはず、棚はあっちの方に…!」


 サポーターを求めて応急用具コーナーへ向かおうとした時、ちょうどその辺りを彷徨く人影が見えた、生存者か化物か分からないがどちらにせよ運悪く目的の棚の辺りにいる、居なくなるまで待つ事も考えたが、入り口の方から化物の声がした為時間が経てばこちらの方にやって来るかもしれない、そして何より美智子みちこを待たせたくない、苦しめたくない、その気持ちが強くすぐ行動に移った。


 息を殺し一歩ずつ周りを確認しながら少しずつ近づいて行く、何も異常のないまま目的の場所までやって来た、鼓動が早く緊張感が高まる、恐る恐る確認したがそこには誰もいなかった、あるのは大きなバッグだけ。


「あぁもう! 誰もいない、むしろいてくれた方が…まぁいいわ、目的の物だけ手に入れればいいし、まだどこかにいるだろうから注意しないと」


…………


…………


…………


「お、やっぱり生存者やん」


 突然後ろから声をかけられた聖良せいらは、慌てふためきそのまま盛大にズッコケた、その際に両手で口を覆いなんとか声を抑える事は出来た。


「ちょっとあんた! 普通に声かけなさいよ!」


「え、ごめん、俺だって警戒してたんだからさ、なんか付いて来てたし、それより大丈夫? 床に顔を…」


「イテテテェェェ、大した事じゃないわよ、ん? うげ! あんたもしかして如月?」


「え、誰? なんで知ってんの? うーん? 見た事ある気がするなぁ、同じ大学?」


「ええそうよ、そんな事どうでもいいの、私は忙しいの、さよなら」


 棚からサポーターと包帯を取り歩き出した。


「そんなんもってどこ行くん」


「あんたには関係ない、てかその馬鹿でかいバッグあなたのだったのね、どうでもいいけど。次に会う事はないと思うからせいぜい頑張って生き残りなさい」


「んだよアイツ」


 何故か高圧的な態度を取る聖良せいらの事を気にしつつも関わらないでおこうと考え永遠とわも反対方向に歩き出した。


「急がないと……ん? 美智子!?」


 聖良せいらの目の前には動く事もままならないはずの美智子みちこがいた。


そんな美智子みちこに対し、聖良せいらは心配した表情で近付いた。

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