第4話 一握りの勇気〜押し出す覚悟

「外の様子、どうですか」


「今の所この部屋の周りにはいないな、おそらく人が多くいる場所に集まってるんだろな、とは言えそれも時間の問題だ、校内に逃げ込んでいる学生もいる、外が片付けば当然次は中、ここも危ない、数が少ない今のうちに動いた方がいい」


「それなら早く島先生も見つけてここを出ないと」


「はぁ…若菜、気持ちは分かるけどそんな事してる余裕はないの」


「でも…協力すればなんとか」


「若菜君、この状況で確実性のない行動をするのはリスクが大きすぎる、君1人なら好きにすればいい、でも集団で動く時に君のその考えはみんなを不幸にするだけだよ」


「そう言う事よ、分かった?」


 若菜わかなを説得し、次の行動について考え始めた、脱出すると言っても大胆に動けるほど校内の化物は少なくない、外に出ても大群に囲まれるだけ。


相馬そうま先生、何かいいアイデアは」


「そうだなぁ行き当たりばったりな方法しかないからなぁ」


「2号館…」


「若菜?」


「そっちに逃げよう、そして南側から出れば必ず助かる」


「若菜、なんの確信があるわけ? 直感なんて言わないでよね」


「希君落ち着いて、話を聞こう」


 若菜わかなの考えはこう、校内を逃げ回っている際に窓から外を見た時、2号館にいたほとんどの学生達は地獄と化した東門の反対側、西側へ向かって行った、そうなれば時期に化物が集まって来る、おそらく2号館正面出入り口が塞がれ使えなくなるだろう、そして学生達は別の出口を目指す、そこが塞がれば別の出口へ、そして次へ、少しずつ出口が塞がれて行く、しかし一つだけある、学生では開けられない扉が南側に。


「関係者用駐車場、確かにそこならこの職員カードがないと入れない、いい案だ、この騒ぎだから車はおそらく使えないが脱出ルートならぴったりだな、問題はそこまでのルートをどうするかだ」


「それなら大丈夫だと思います、きっと永遠も向かっています、中間地点で合流出来ます」


「永遠? あいつはカードなんて持ってないだろ、向かった所で何も出来ないましてや合流なんて、入れないんだから」


「あ、そっか、相馬そうま先生、あいつカードなくてもハッキングして扉開けれるんですよ」


「え?」


「まぁそんな事どうでもいいわ、若菜、最適ルートの案内頼むわよ」


 唖然とする相馬そうま先生を置き去りに2人は部屋を出て行った、言いたい事はいくつかあるが今はそれどころじゃない、あとでみっちり叱ってやると心に決めて2人の後を追って行った。


 ちょうどその頃、智理ともりは2人を探して彷徨っていた、診療所へ向かったが当然2人の姿はそこにはない、無駄な戦闘を避ける為に一度引き返した、それはいいが戻った先にも化物がいる、囲まれる前に智理ともりは仕方なく2階へ上がって行った。不思議と奴らは追ってこなかった、1つの餌よりも外にいる大勢の餌を求めて窓を突き破り外へ出て行った。


「勢いだけでこんな所まで来ちまったけど、ここからどうすればいいんだよ、早くしねぇとみんなが…あれは、先生!」


「うぅ…その声は…神坂か?」


 智理ともり非常ベルの前で座り込む島崎しまさき先生を見つけた、すぐに先生の元へ駆けて行った、まだなんとか生きてはいるが深傷を負った首元を押さえて苦しんでいる、出血も酷い。


「先生、すぐに応急処置します、ちょうど包帯があるのでとりあえず止血します」


 先生は処置を開始しようとする智理ともりの腕を押さえ早くここから逃げる様に伝えた。


「どうして、まだ助かります!」


「お前…も 分かって…るだろ? 一度…噛まれら、やつ…の仲間……それに…私…は、楽し…人生だた…最後に お前や…如月みたいな、やんちゃで…バカで…才能…に溢れた…生徒と会え…は、誇り…に思う これを…持っていけ」


 先生は細々とした声で自身の胸の内を智理ともりに伝え、最後に職員用カードを渡し静かに息を引き取った。智理ともりは目の前で自身の道を示してくれた恩師を失った。怒りと悲しみでどうかなりそうな気持ちを押さえ、再び2人を探し歩き出した時、唸りを上げてゆっくりと島崎しまさき先生が立ち上がった。


「う、うぅあぁぁ」


「先生……ごめんなさい」


 智理ともりはジャケットから拳銃を取り出し先生へと銃口を向けた、照準を合わせ引き金を引こうとしたが手が震えて引き金が引けない、その間もゆっくりと少しずつ先生は智理ともりに近づい来た。


「先生…クッ!」


「あ、やく…撃て」


「先生?」


 先生はまだ僅かに自我が残っていた、今なら先生は島崎しまさきとして死ぬ事が出来る、覚悟を決めた智理ともりは涙を流しながら2発の銃弾を浴びせた、校内に響く轟音と共に先生は肉片が飛び散りながらその場に倒れた。


「うゔあぁうぁ!!」


「クッソ、流石にあんなに大きな音を立てれば奴らも集まって来るか、早いとこ移動しないとな」


 銃声を聞いて化物達が集まって来た、数は3体と少ないがたまは無駄にしたくない、たまたまその場にあった消化器を持ち上げ、臨戦態勢に入ったが、智理ともりは気付いていなかった、背後に迫る危険を、2発の銃弾を浴びせてもなお化物せんせいは立ち上がった、音を立てず忍び寄る様に智理ともりへ近づく…


「後ろ!」


「え!?」


「うぐぁあぁ!!!」


 その声にで後ろを振り返り、飛びかかって来た化物せんせいの攻撃を消化器によって防ぐ事は出来たがそのまま倒れ、化物せんせい智理ともりに覆い被さり噛み付こうとした。


「なんて力だよ! 耐えられねぇ!」


 間一髪の所で化物を智理ともりから引き離した、助けてくれたのは永遠とわだった。


「お前なんでここに」


「なんでって単騎で行動するのは死ぬのと一緒だからな、さっき銃声聞こえたから急いで来た、それよりも、まだこんな物騒なもん持ち歩いてんのか」


 永遠とわは倒れた拍子に落とした智理ともりの拳銃を拾い上げ銃口を化物せんせいに向けた。


「永遠! その人は」


「分かってる、島さんだろ? だったら尚更だろ、殺してやろう、これ以上醜い姿のまま徘徊させないために」


 永遠とわは一切躊躇わずに化物せんせいの眉間を撃ち抜いた、今度こそ死んだ、もう動かない。


「行くぞ!」


「あ! おい!」


 智理ともりの腕を引っ張り永遠とわは走り出した、銃声に気付き集まって来た化物の合間を縫って行き、2号館への連絡橋がある4階まで駆け上がり一度立ち止まった。


「はぁ…このバカ! 死んでたぞお前」


「わりぃ」


「とりあえず歩こう、息を整えながら」


「分かった」


「島さんは初めから化物だったのか?」


「違う、俺が見つけた時はまだギリギリ生きてた、俺達と会えて嬉しかったって言ってた、そして最後にこの職員カードを渡された」


「よかったな、それがあるなら及第点だよ」


「どういう事だ? それに今どこに向かってるんだよ」


「2号館」


「そっか、このカードがあれば南側の駐車場から出られるのか」


「そう、だから先回りしてハッキングして開けようと思ってたけどそれがあるなら問題ない、あいつらも行ってるなら先に追いつけるはず」


「ちょっと待てよ、そっちに行ってるなんて分かんないだろ、どっか隠れてるかもしれない」


「かもな、でもそれぐらいしか選択肢がない、悠長に探してたらそれこそ終わりだよ、周りを囲まれて脱出不可能になるだけ、運が良ければ生き残れると思うけど」


 この状況でも冷静に淡々と語る永遠とわに少し恐怖を覚えながらも後ろをついて行った、歩きながら永遠とわは化物について話し始めた、飽くまで憶測に過ぎないが、仮説が正しい場合の対抗策はあるに越した事はない。


 まず奴らの生命力、これは言うまでもなく高い、現に銃弾を2発浴びせても死ななかった、そして筋肉が発達しているのか人間のリミッターが外れているかは分からないが並の筋力ではまず力負けする、その代わりにものすごい早さで腐敗するのか奴らは非常に骨が弱い、躊躇わずに拳を振り抜けば頭蓋骨は砕ける。


そして化物も一応は生物なのだろう、脳からの信号を遮断する事が出来ればもう動かない。


頭はおそらく悪い、と言うより本能で動いている様に感じる、えさを見つければそれに向かって歩き出すだけ、一応えさか化物かの区別はつく様だ。


視力、聴力、についてはよく分からないが最低限はあると言っていい、あとは鼻がどれだけ効くかはかなり重要になって来る。


「へぇ〜そんなに考えてるのか」


 永遠とわの話に感心しながら歩いていると窓から2号館へ続く連絡橋が見えて来た、そして2号館へ向かって走る2人が見えた。1人はのぞみ、もう1人はちょうどのぞみと重なって見えなかった。


「いたぞ永遠! 希だ! もう1人はちょうど見えないけど背丈からして若菜だろ 早く行こう!」


 2人は同時に走り出したが、ふと血溜まりに目線を落とした永遠とわは唐突に立ち止まった、その目線の先には血溜まりの中に落ちている1つの腕時計、血が付着してハッキリとロゴは見えないが、そのデザインは誰もが知っているブランド、Janelleジャネルだった。

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