第4話

 もう、働いて三日である。


 新しい宿になった。職場に近く、もっとも都合いい所にした。


 肉体労働の帰りだった。日暮であった。


 楽な仕事はないか、と私は歩いた。


 風呂屋へ寄った。湯につかり、その事を考えた。


 風呂屋を出る。日はまだ落ちきりはしてないといった空だった。


 道の右端や、左端に、肉屋やら、野菜屋やらがある。それらがどうやってして店をなりたたしてるか、見当つかない。


 職場で、簡単な言葉を習っているが、商売ができるほど上手くなれないと感じる。商売人の全員が、カードの力に頼りきり、とは違うと思う。


 鎧をつけたモノが通っていく。私は、あれほど筋肉はつかない。戦いっぽい身のこなしも分らない。


 先天的な何かが、私と彼らとで、ちがう気がした。


 私は技師や、奴隷商、御者などをみた。その特技が生れながらのものとすれば、生れながら持ってないものが、ああして、路上で体から花を咲かせて、消えるのだと思う。


 自分の能力が解らない、もしくはない私は、ただ、彼らがうらやましかった。


 その私の横を迷うことなく過ぎる何かがある。目で追って振り向くと、そいつは、前に金をくれた盗人だった。あまりに迷いなく行くから、何かあるのだと思った。


 私はそのへどろに、ついていった。




 細い道へ来た。人一人が通るくらいだった。


 ついて来たはいいが、したいことがあるわけでもない。だから、角を曲って、へどろがいなくて、少し安心した。


 短い冒険だった。明日の仕事が心配になった。


 宿へ帰ろうと決めた。


 知らない道でへ入り込んでいる。地理的に近道だと思って、へどろがいなくなった道の方へ踏み出た。


 一瞬間の後、頭上からなにかに圧し潰された。


 身動きできなくなり、声も出なかった。


 細い線のようなものが首に当った。刃の想像が膨らんだ。体が冷えた。


 泥っぽさが背側全面にあった。


 それは、様々な言葉を使ってから、


「聞えるなら、うなづけ」


 私はうなづいた。


 へどろは、


「どうして私をつけて来た」


 と言った。


 私も、よくわからない。


「お金が、手に入ると思って」


 とは正直に言った。


「どこからだ?」


「前みたいに、偶然貰えるかもって」


 どこからだ、とへどろが言った。


「・・・・・・あ、あなたからか、どこからか、偶然に」


 相手は、意味がわかってないようだった。


「四日前くらい、あなたからお金を貰ったんです」


 やっと合点がいったようだった。


「それで、また貰えるかもと思ってついて来たのか?」


「はい」


 へどろは迷うように黙った。


 首についた刃が立った。刃が揺れているか、私が震えているか、わからなくなってきた。


 やがて、首のそれが離された。変わりに、手首に枷がつけられる。


「立て。・・・・・・歩け」


 背中を押され、私は進む。


「変な行動であったり、声をだしたりすれば嘘だと決めてうごく」


 尖った物が背にあてられた。


 私は、欲をかいたことを後悔した。

 

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Horror World @ChitoAlto

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