第3話
目がさめた。
朝になった。朝はないとばかり私は思っていた。
夕方頃、生れたので、朝が初めておとずれた。どこか懐かしく感じた。
宿の借りた部屋にベッドがあり、そこで寝た。金は使いたくなかった。しかし、路上で寝て、盗まれるのが、嫌であった。
昨夜、着替えはないので、マントだけぬいで、ベッドに横たわった。
その目覚めは悪かった。
結局、何の力か解らなかった。あの食事の後、色々ふれよう、と道具屋へ行ったが、変らなかった。
ベッドから起き降り、マントをまとう。フードをした。
役場をおもって、部屋をでた。
役場の場所がわからなかった。
それで、道端の坐りこんだ人に尋ねた。その人間は、似たマントを羽織っている。恨みがましい眼でこちらを見た。
何もしゃべらないので、試して、持っている銅色の金一枚をちらつかした。
坐っていた男は即座にうごいた。私の金を取った。それを、まじまじと眺める。それから、男は話し始めた。
ついでに働き口についてもきいてみる。今度は、金を見せようが言わなかった。増額するのはもったいないから、そのまま離れた。
私は教わった方へと歩いていった。
夜だった頃と比べて、道には活気がなかった。何だか不気味な感じがした。朝なのに、どこか暗い石の街だった。
役場についた。大きな建築物で、なおさら誠に感じた。番兵が入口に二人、立っていた。
私は役場へはいろうとした。が、番兵がじゃまをした。
番兵は、
「――――」
と、言う。知らない言葉だった。今回、その意味も解らなかった。
「――――」
と番兵が言い直した。違う言語だとは、察せた。
「聞えますか」
とは三度目であった。私はうなづいた。
番兵はニコリと笑い、
「もう少し、ふさわしい格好で来てください」
「金がありません。それで、働き口を探してまして」
と私は返す。
「ここはそいった所ではありません」
「なら、どこへ行けばいいんですか」
「それは、おのおのが、自由に決めればいいと思います」
その言葉は、私の頭についた。
冷静になり、どういう経緯で番兵となったか、聞いた。
彼らはすんなり言った。
一方は労働施設づとめだったそう。金を貯め、様々な面接に臨んだとか。
もう片方は、自分のカードの能力を売りこんだと言った。語学が堪能なところをみせてくれた。普通、長い時間をかける、と施設の方が言った。確かにこちらはカタコトだった。カタコトの方は、甲冑や鎧で見えてないから、モノかも知れない。堪能な方も、人に見えて、別の種族かもしれない。
彼らは心に余裕があるのだと思った。
私は、労働施設の場所をきいた。今の私でも、すぐ働けるそうである。
その施設へ、私は向いだした。
行く途中、私は一世帯の家族を見つけた。それは、ふっと気づいたら生まれているという、この世の生れ方からすると、不自然な形だった。私には家族に見えるというだけだった。男女の大人二人に、一人の子供は、理屈なしにそうみえた。
私は親を思った。私には親がいない。しかし、私を支えてくれた誰かがいたことを、薄々感じた。それが親に思えた。
もし私がどこかの家に住んでいたとすると、それは親が借りたか買ったかの家だろう、と思った。着ていた服も、親が買ったものだろう。置いてある家具も全てそうだ。私が何気なく自分の物と思っていた物は、みんな親が買ってくれたものだった。
私は、そんな親のことが大きなものに感じた。そう感じるということは、私の親はいい人たちだったのだろう。その家も顔も思い出も、私は忘れた感じがした。私は泣きたくなった。
そこにいる親子は、私にじろじろと見られたために、足早に去った。
それから、歩いて、労働施設に来た。
私は施設の入口へ進んだ。
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