紙飛行機を投げる手たち
息をする。繰り返す、反復、repetition、死ぬまで息をすることはやめられない。わかっている。紙飛行機がいつか落ちるように、初めての街で空を見上げた瞬間から夢は終わった。でも人生は終わらないから知らない名前の野菜だって食べる。ライカ、ライチ、ライム……息をしないたくさんの名前たちへ。
駆け出していく子どもたち
その先には地雷が埋まっている筈もなく
彼らは落ちてきた人々とぶつかり絡み合い
繰り返す、チーズケーキの屋台が
やって来て赤いベリーソースをたっぷりかけた
ケーキを皆んなが頬張り犬の散歩をしている老人
紙飛行機が、もしかして、落ちない未来を
想像していたのか、と質問されたあの日に
一度息を止めて足を止めて時計が壊れた
ライチ、ライカ、ライム、ライト、名前だ
知ってしまったらシャッターを切れるのかな
問題もなく指は反復する、死ぬまでやめられない
筈はないのに、毎日同じように会社に行き
帰りにスーパーや八百屋に寄る、たまにすれ違う
そっくりな顔が畑のトマトを盗んで齧りついて
こっちをみている、繰り返す、反復、repetition
笑っている、何度も何度も何度でも切り取る
路地裏ではそっくりな顔が潰れていた
名前を呼ぶ、日々リストには新しい名前が
加えられていく、まだその中に自分はいない
だから自らの手でそこに名前を書いてみせた
まだ息をしている、プールに飛び込んでいく
息継ぎをすることを教えてくれたのは叔父だ
初めてライチを食べた日を写真に収めたのも
ライムライトという映画を教えてくれた翌日
僕はライカを貰うことになった、犬とカメラ
息をして、繰り返す、反復、repetition、死ぬまで息をすることをやめない。まだわからないことだらけだから、終わっていてもまた始められる。知らない名前を集めて生きるのは、これぐらいにして舌をだしてやろう。誰に?誰にでも。誰にでもできることをしよう。上手には泳げないけれど、息継ぎは出来るから何度でも紙飛行機を投げる手と繋がっていく。
こうた魚の名もしらず 帆場蔵人 @rocaroca
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