推し活は巡り巡って  ~ 「作家先生とお手伝いさん」外伝

三枝 優

孫と父親と祖父

「それでね! その先輩がとってもヤバいの!もう泣けちゃうんだから」


 中学生の孫娘が、アニメのキャラについて祖父に熱く語っている。

 ラブコメの脇役が最近の”推し”らしい。


「ほお、そうかい。どんなところが泣けるんだい?」

「その先輩は、ほんとはヒロインのことが好きなのに主人公のために身を引くばかりかいつも助けてあげるの!でもってね・・」

「ふんふん」


 祖父は熱心にその話に相槌をうつ。

 本当に、親父は分かっているのだろうか・・・?


「それで、今日これから友達とその映画を見に行く予定なの!その後、本屋さんで原作小説の新刊を買いにいくのよ。おこずかいがいくらあっても足りないから、バイトしたいんだけどね。あ!今度、本持ってくるね」

「バイトは高校生からじゃないのかい?」

「そうなの!けち臭いよね!」


 何がけち臭いのか、よくわからないのだが。


「あ!もうそろそろ行かないと映画が始まっちゃう!じゃあ、おじいちゃんまたね~!」


 バタバタとあわただしく祖父の家から出て行った。


「父さん、すみません騒がしくて」

「いやいや、いいじゃないか。熱中するものがあるってことは」

「ですけどねえ・・・」


 ため息をついて、父親は愚痴を言ってしまう。


「勉強もせずに、アニメばっかりで困ってるんですよ。誰に似たのか・・・」


 すると、あっはっはと笑われた。


「おまえも、若いときはバンドに夢中だったじゃないか」

「う・・・まぁそういう時期は誰にもありますよ」


 父親は、学生の頃はビジュアル系のバンドに夢中でCDはすべて持っていたし、コンサートにも毎回行っていた。

 サインをもらうために出待ちなんかもしていた。


 血は争えないという事だろう。


「ところで、親父・・・最近体調はどうなんだ?」

「おかげさまで、なんともないよ。この間、人間ドックにも行ったが健康そのものだってさ」

「それならいいけどね・・・それに・・・」

「なんだい?」

「生活は大丈夫なのか?お金とか・・・。同居してもいいし。そうでないなら、なんだったら仕送りしてもいいんだけど・・・」

「心配するな。年金もあるし、貯えもあるから、問題ない」

「そうなのか?」


 祖父は庭の方を眺めながらぶっきらぼうに言った。

 目を合わせない・・・嘘をつくときはいつもそうだ。


 しかし、それを追求しても仕方がない。

 息子は家の中を見渡しながら不思議そうに言った。


「それにしても、綺麗にしているよな。掃除とか大変じゃないのか?」

「あぁ。これは時々お手伝いさんに来てもらってるんだ」

「え?高いんじゃないのか?」

「そうでもないさ。毎日でもないしな」

「それならいいけどね。じゃあ俺もそろそろ行くよ」


 なんだかんだ言って、月に一度くらいは顔を見に来てくれる。

 息子に感謝しかない。


「それじゃあ、また来るよ」

「あぁ、ありがとうな」


 息子の車を見送って、祖父は家に入り・・・

 書斎に向かった。


 書斎机に向かい、パソコンの電源を入れる。


 まずは、メールのチェック。

『先生。来週の締め切りに間違いなく間に合いますでしょうか?進捗を教えていただきたく思います』


 苦笑する。

 いままでも、締め切りに間に合わなかったことは一度しかない。


 進捗状況をメールした後、書きかけの文書ファイルを開いた。



 孫娘が見に行った映画の原作。

 それを執筆しているのが祖父だという事は秘密である。


 実はサラリーマン時代から兼業作家をしていた。

 定年後、専業作家になり作品数が増えるにつれて人気が出て、アニメ化やドラマ化がされ、映画にもなっている。


 先ほどついた嘘・・・

 じつは、収入が多すぎて年金をもらっていないのだ。


 それにしても、、孫娘のおこずかいが巡り巡って自分の収入になっている。

 因果なものだ。

 こんど、おこずかいを増やさないとな。

 また、自分の作品にお金が回ってくることになるかもしれないけれど。







 2時間ほど執筆していると玄関の呼び鈴が鳴った。

「こんにちわ~~!掃除しに来ました~」


 いつものお手伝いさんが来た・・・が!?


「ちょっと君!約束は火曜と金曜だから、来るのは明日の予定だろう!?」

「えへへ、来ちゃいました」

「来ちゃいましたじゃない!」


 この女子大生のお手伝いさん。いつも自由奔放すぎて振り回されっぱなしである。


 ため息をついきながらも、家に入れる。

 じゃないと、いつまでも呼び鈴を鳴らし続けるだろう。


 今度こそ、家政婦紹介所に言って担当を変えてもらおう。

 そう心に誓うのであった。


「あ、先生。今度、担当変えてもらおうって思ったでしょう~?そんなことしちゃ、ダメですよ~」

「心を読んだのか!?」

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