神様の推し活

味噌わさび

第1話 「推し」と「神」

「はぁ~、暇じゃ……」


 神社の境内で、巫女服の黒髪少女がつまらなそうな表情でそう言った。


「……そうですか。いいじゃないですか。暇で」


 境内を掃除している俺は、彼女に無表情でそう言う。


 すると、少女は不満そうに頬をふくらませる。


「良くないわ! ここは神社じゃぞ? こんなに参拝客がいなくてどうするのじゃ!」


 俺が掃除している神社は、確かにほとんど参拝客がいない。かなり寂れているし、なんとか神社として認識できる程度の建築物である。


 そんな神社にたまたま訪れてしまった俺は、運良く……いや、運悪く、その神社に神様に出会ってしまったのだ。


 もっとも、彼女が自分のことを神様と自称しているだけで、本当にそうなのかは知らないのだが。


「仕方ないでしょう。辺鄙な所にあるし。誰も来ませんよ」


「嫌じゃ! もっとたくさん人に来てほしいのじゃ!」


 わがままを言う神様。かといって、俺は別にいい案をも急には思いつかない。


「……じゃあ、神様。アイドルとかやってみたらいいんじゃないですか?」


「は? アイドルじゃと?」


「えぇ。アイドルになれば、アナタの『推し』になってくれる人がたくさん参拝に来てくれるはずですよ」


 俺がそう言うと神様は少し考え込んでいたようだったが、すぐに首を横にふる。


「嫌じゃ! アイドルなぞ……歌ったり踊ったり大変そうではないか! 儂は楽して、たくさんの人間に崇められたいのじゃ!」


 予想通りの答えが来た。この自称神様、とても怠惰なのである。


「じゃあ……我慢するしかないですね」


 そう言って俺は掃除が終わったので、帰ることにする。


「おい! 次来る時までに儂の『推し』が楽に増える方法を考えておくのじゃぞ!」


「はいはい。わかりましたよ」


 適当に対応しながら、俺は神社から立ち去る。


 ……人が集まるようになる方法など、俺が真面目に考えるわけがない。


 まさに、奇跡として思えない出会い方で、俺は神様……いや「推し」に出会ったのだから。


 毎日、この寂れた神社の境内の掃除をするのは、俺なりの神様への「推し活」なのである。


「……まぁ、当分はこの『推し活』は、俺一人で楽しみたいからなぁ」


 神様には申し訳ないと思いながらも、俺は明日の「推し活」を楽しみにしているのであった。

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