不人気な姫な私ですが、国一番のアイドルを目指すことになりました

風親

第1話

「勇者殿。もっと他に褒美はいらぬか? 何と言っても魔王を倒した大英雄なのだから、何でも望んでくれていいのだぞ」

 謁見の間で父である国王陛下は、そう言いながら露骨に後ろに並んだ私たちの方に視線を向けた。

 魔王を倒すという大偉業を成し遂げて、国民からの人気も高い勇者さまを何としても身内に引き込んでしまいたいのだろう。

「そうですね……」

 スラリと長身で、素朴な感じが抜けない勇者さまは少し困ったように顎に手を当てながら私たち四姉妹を見ながら考え込んでいた。

(下手に断って、国王陛下に敵対視されるよりはいいと考えたってところかしら)

 故郷でいい人が待っているとかいうことは無さそうなので、少しドキッとしたけれど、私なんかが選ばれるはずがないと現実に戻った。

(姉さんたちの方がいいよね……)

 長女のリア姉さまなら、素晴らしいプロポーションの体とともに次期国王の地位も手に入れられるかもしれない。次女のリリア姉さまは、見慣れている私でさえも見とれてしまう他国の王家からも嫁に迎えたいと言われる絶世の美人だ。妹のカホは、まだまだ若くて可愛らしいけれど司祭として才能を発揮して聖女として国民からも崇め奉られている。

(私なんかを選ぶわけはない……わよね)

 いつものことだった。姉妹で並べられてしまうと余計にみっともなくて消えてしまいたいと思う。

「それでは、三女のワイア様を頂けますか?」

「えっ。私!?」

 全然、選ばれるとは思っていなかった私は、思わず間抜けに驚いた声を出してしまい父上からは呆れた顔をされてしまった。

 姉さんたちは、少し羨ましそうにしながらも笑顔で私を祝福してくれる。何をやっても駄目な私の行く末を本気で心配してくれていたようだった。

(え? 本当に?)

 冗談だと思ったけれど、勇者さまは本当に私に手を伸ばしている。

(さっき、領地をもらっていたわよね。国境付近で大きな領地、かなり権限も任される形に……つまり、私は勇者さまの妻でいわゆる辺境伯の夫人になるってことね……うん、結構良いんじゃない?)

 目の前の勇者さまは、地味で素朴な感じはするけれど若くてなかなか整った顔立ちだ。

 このままだと嫁の貰い手もなさそうで、どこかの年寄り貴族の後妻になんて囁かれていた私にとっては予想もしていなかった幸運なのかもしれない。

「喜んでお受けします」

 内心では飛び上がりたいくらいだったけれど、何とか姫らしい威厳を保ちつつ勇者さまの手をとった。



 一月後、私は勇者さまの新領地で勇者さまと再会を果たした。

「あの? これは、何なのでしょうか?」

「ここの制服です」

 勇者さまのその言葉を聞いても全く意味が分からない。いや、着替えてから質問する私も遅すぎなのだけれど、随分とふわふわしたものが何段も重ねられたスカートを触りながらそんな質問をした。

「そして、ここは何なのでしょう?」

 私は、かなり大きな木造の建物の中に立っていた。丸い机と椅子がいくつもあって、奥には一段高いステージらしきものが見える。

「国境の城で一緒に暮らすものだと思っていたのですが……」

「城はいただきましたけれど、あんなところで住む気はないのです」

「え?」

「この街道沿いで、たくさん人が集まるような劇場兼酒場を作りたいと思っていたのです」

 勇者さまは満面の笑顔でそう言った。魔王を倒すなんて全然自分の柄じゃないと謙遜なのだか良くわからないことを言っていた。

「僕は前世ではアイドルのプロデューサーだったんですよね」

「前世? アイ……プロデュ……?」

 謎の言葉を私は理解できずに首をかしげていた。そのことに勇者さまも気がついてくれたようで分かりやすい言葉にしようと少し考え込んでいた。

「つまり、姫様にはこの劇場兼酒場の看板娘になってもらいたいのです」

「なんですって?」

 意味が分からないながらも、話が違うと私は抗議をする。

「なぜです? 私は辺境伯夫人としてここにきたはずです」

「え? 別に嫁に欲しいとは一言も言っていませんよ」

 目を丸くしながら勇者さまはそう答えた。別に騙したつもりは本当にないらしい……確かに、嫁に欲しいとか結婚して欲しいと言われたことはない気がする。

「え。あ、ああ、確かに……。で、では、なぜ私を?」

「以前に城壁で、踊りながら歌っている姿が印象的でしたので」

「うわあ。あ、あれをみ、見られてた」

 我ながら奇行と言われても仕方がないと思っていた。でも、鬱憤がたまるとどうしてもやりたくなってしまい、人がいない時を見計らって踊っていたのだった。

「あああ、あのことはどうぞご内密に……」

「もう窮屈な城の中ではありませんよ。好きなだけ踊っていただいていいのですよ。あのステージで」

 怯える私に、勇者さまは手をとって優しく励ましてくれた。

「あれを見て、私を城から出してくれようと思ったのですか?」

「はい」

 勇者さまは微笑んだ。どうして、もっと美人の姉たちを選ばないのかと思っていたけれど、少し同情もあって一緒に連れて行こうと思ってくれたのだろう。私は、この優しい勇者さまに感謝していた。

「歌って踊れるお姫様なんて、絶対、人気がでると思いました」

「え」

「僕はあなたを異世界一のアイドルにしてみせます! 頑張りましょう!」

 ちょっといい雰囲気になった気がしたのは、私の気のせいだったようだ。

 熱く語り続ける勇者さまに、私はちょっと呆れた顔になったけれど力強く頷いた。

「ええ、やってみせるわ。アイドルとやらを」

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