10話.[君より強いなあ]

「やっぱり駄目ですね、そら先輩の気持ちが分かりましたよ」

「複数人で集まると言葉を発するタイミングとかも難しくなるからね」

「ちなみにそら先輩は全く問題なく会話に加われていますけどね、いまのはちょっと前のそら先輩のことです」


 うーん、ちょっと棘を感じるかなあ。

 ただ、でしゃばって邪魔をしたわけではないんだから悪く言うのはやめてもらいたいところだった。

 ほとんどは話しかけられたら反応をしているだけ……だと思うから。


「ふたりで過ごすつもりだったのに兄貴と優里香と真海が加わって、自分がいる必要はないなと部屋にこもりたかったぐらいですよ」

「そこは大胆に連れ去ってくれてもよかったと思うけど」

「真海が話したがっていましたからね、そんなことをしたら嫌われます」

「でも、お家で話すからということで解決したよ?」


 あ、あら、なんかさらに悪い方に傾いてしまった。

 約束をしていたとはいえ、あの状態で彼だけを優先することなんてできなかった。

 空気が読めない存在にはなりたくないし、真海と兄君に嫌われてしまったら過ごしづらくなるから仕方がないんだ。


「ちゃんと付き合うから大丈夫だよ、おいで~」

「……もうこれからはそら先輩の家で集まりましょう」

「私としてはその方がありがたいよ、外は寒いからね」


 彼は熱がこもりがちというか、体温が高いから触れているとほんわかとした気持ちになっていく。

 で、動きたくもなくなるから抱き枕みたいにして抱いて寝る時間が最近のお気に入りだった。


「……俺、このときはどうしていればいいのか分からなくなるんですよね」

「一緒にお昼寝をすればいいよ」

「もったいないじゃないですか、俺、休日は夜以外寝ないようにしているんです」

「焦ったってなにも変わらないよ~……」

「ちょっ、寝ないでくださいよっ」


 大きな声もいまの私には効かない、だからどんどんと意識が夢の世界へ、はぎゃ!


「い、痛い痛い痛い! だ、抱きしめる力が強すぎだよ!」

「おお、そら先輩も優里香みたいに大きな声を出せるんですよ」

「えぇ、なんか暴力を振るってきそうな怖さがあるよ……」


 痛めた後に言うことではない、しかも楽しそうに笑っているとか怖すぎでしょ。


「もう、甘えん坊で寂しがり屋だなあ」

「え、こんなに必死に抱きついてきているあなたが言うんですか?」

「それは君もでしょ?」

「似た者同士って言いたいんですか? 俺はあなたと違って寂しがり屋とかじゃありませんし」


 む、なんで可愛げのないことを言ってしまうのかという話だ。

 素直になればいいのに、私は否定していないんだからむきになる必要もないのになにをしているのかと言いたくなる。


「ふーん、そんなことを言うんだ、そんな悪いことを言っちゃう君にはこうだ!」

「ふっ、効きませ――」

「ふははは! やっぱり私は君より強いなあ」

「ちょっ、な、なにしているんですか!?」

「なにって、ふふ、恋人らしいことだよ」


 離れられたことで寒くなってしまったから体が面白さと寒さで震えた。

 それでも彼の慌てたところが見られて大満足なのだった。

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