君へ
ホトケノザ
第1話 君へ
君へ
白い。
辺り一面が白い砂で覆われている。それ以外には何も見当たらない。存在しているのはただ、己と、この真っ白な地面と、浅葱色の晴天と、空高く浮かぶぼやけた橙色の光源のみ。
地に片膝をつき、足元の砂を両手で掬い上げる。膝小僧の先が僅かに砂に埋まった。砂粒が指の隙間からはらはらと零れ落ち、降り注ぐ光を反射して細やかな一筋の煌めきを見せる。ふぅと息を吹きかけると掌には一粒の白も残らなかった。
気配を感じた。
周りに何も無いことを確認し、漠然とした不安に襲われる。
湧き出た僅かな焦燥感を胸の奥にしまい込んで歩き始める。どこが目的地かも、見つけられぬまま。
(この方向で合ってる?)
気懸かりになって、振り返ってしまう。すると白ではない色が目に止まった。緋色、桃色、群青、鉛色、山吹色、瑠璃、黄金色、漆黒、……。様々な色の花が、今〈自分〉が歩いてきた足跡の上に散らばるようにして咲いている。
「……汚いな」
声が漏れた。足を前に動かすのは止めた。最早、進むべき方向が分からない。途方に暮れているのは〈自分〉だけ?
ふと、〈声〉が大気に響いて来るのを感じた。音声は頭皮を通り越して頭の中までガンガン反響してくる。
「太陽を目指して歩きなさい。それが貴方の進むべき道です」
他に頼るべきものも見つからなかったので命じられるまま足を進めることにした。
一歩ごとにつま先が地面にめり込み微かに音を立てる。気は楽だった。何処へ行こうか、なんて考える必要も無いし、一体何時になったら道が見えてくるの、なんて不安に襲われることも無い。ただ言われた通りの方向を目指して進めばそれだけでいい。絶対に正しい。地平線も、白い地面も、ただ存在しているだけのオブジェクトであり酷くつまらないもののように思える。
幾度も砂が擦り合わさって音を立てる。
足が止まった。 この方向である筈なのに。
何故だろう。 ……そうか、味気ないんだ。 つまらないんだ。 面白くない。 誰かに言われた通りの道なんて面白くない。 自分の進む方向は自分で決めるからこそ面白い。
理由に思い至った途端、晴れやかな気持ちが広がった。 今では、周りにある砂の一粒さえも自分の行きたい方向を見定める一つの大事な指標のように思われる。 ぐるっと辺りを見回した。周りにある地平線も、白い地面も、今では一つ一つが自己決定をするための重要な指標のように思われた。口角は自然と上がっていた。 思い切り、太陽に照らされた新鮮な空気を一杯に肺に取り込んで。
「さあ、どこへ行こうか!」
君へ ホトケノザ @hotokenoza_
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