エピローグ ソロ冒険者とパーティー

 ダンジョンを出て、通信端末の電波が入るところまで帰り着くと、マコトはもはや何度目になるかという3桁の番号をプッシュする。


 駆けつけた警察に、女の子とダンジョン内で死んでいるマフィアたちを引き渡した。

 マフィアはダンジョンの中で拘束した後、蘇生薬で生き返らせてから連行される手はずだ。


 電話をかけた瞬間は「またか」と言わんばかりだった警察も、手を焼いていたマフィアたちを引っ張れたことで一転態度を変えて、何度も何度も協力に感謝をして頭を下げていた。

 感謝状も出るかもしれないとのことだ。


 しゃちほこばって対応するマコトを、アランは一歩離れたところから眺めていた。

 一通りの聴取が終わったところで、アランがマコトに声をかける。


「これで一旗上げたって言えるんじゃないの。家、帰れるよ」


 その言葉に、マコトは目を見開く。

 一瞬迷ったように視線をそらしたが、すぐにアランに向き直り、きっぱりと言った。


「帰らない」

「え?」

「オレ、もうちょっとこっちでやってく」


 そう言い切る横顔は、どこか清々しい。

 アランは呆れたように、……そして少しだけ眩しそうに、目を細めた。


「気づいたんだ。人助けってやっぱり気持ちいいな。冒険者になったばっかりのころを思い出した」


 マコトはまるで自分に言い聞かせるように話しながら、警官との会話を思い出す。

 ご協力ありがとうございます、というそのテンプレートじみた言葉が、やけにマコトの胸に響いた。


 そうだ。誰かにありがとうと言われるのは、こんなにも嬉しいことだった。

 マコトは今日一日で、ソロで冒険者をしている間に忘れていたものを、どんどんと取り戻している気分だった。


 その前に散々すさんだ気持ちになっていた分、より一層心に染みる。

 初心に帰ったマコトの目には、新しい目標が映っていた。


「警察の人に誘われたんだ。警察お抱えの冒険者として働かないかって。今回みたいなダンジョン内での犯罪を防ぐために、人手が欲しいみたいでさ」

「ふーん。まぁ、いいんじゃないの、公僕。俺にゃ無理だけど、坊ちゃんなら向いてるよ」

「何言ってんだよ」


 笑いながら肩を竦めたアランに、マコトはきょとんとした顔で彼を見上げる。


「アンタも一緒だからな」

「は?」


 マコトは当たり前のように告げた。

 今度はアランが目を見開く番だった。


 冗談でしょ、と笑い飛ばそうとするも、マコトの顔がいたって真面目なものだったので、一瞬躊躇する。

 それでも、引き攣る口元を引き上げて、笑って返した。


「冗談、誰が警察なんかに」

「リーダーはオレだ」


 決定事項だと言わんばかりのマコトに、どうやら本気らしいことを悟った。

 これはまずいと、アランは周りにいる警官たちに同意を求める。


「いや、いやいやいや。俺、坊ちゃんに言わせりゃ犯罪者よ? そんな奴警察が雇うもんか。ねえ?」

「お前に留置所1部屋埋められるの正直迷惑だったし」

「お前の件で呼び出される警官の人件費と車代が浮くだけで万々歳」

「目の届く範囲に居てくれたほうが相対的にマシ」

「踏み倒してる飯代分ぐらいは働いてもらうからな」


 同意どころかばっさり切り捨てられて、絶句するアラン。

 マコトは「日ごろの行いってやつね」と鼻を鳴らした。

 そう、まさしく日ごろの悪行の賜物であった。


「おっさんもそろそろ良いことして、悪事の分のツケを払ったほうがいい」

「悪事って……俺はちょっとばかり、たくさんあるところから頂戴してるだけで。冨の再分配っての? 俺みたいな小物より、もっと」

「アンタを見張っておけるし、オレはパーティーが組めるし、安定した雇い先もゲットできる。良いこと尽くめじゃないか」

「坊ちゃんだって嫌がってたろ、俺とのパーティー」

「嫌だけど」


 アランの言葉に、マコトが頷いた。

 嫌と言いながらも、口元には笑みが浮かんでいる。


「アンタと組んでたら、オレだけじゃ助けられない人も助けられるかもしれないだろ」


 マコトがまっすぐにアランを見る。

 何を言っても聞かない様子を察知して、アランはぐっと押し黙った。


 頭の中で損得勘定をしているようで、もごもごと何やら言葉にならない声を漏らしていた。

 やがて、やれやれとため息をつく。


 どうせ3ヶ月はパーティーを解散できない。追放されることも出来ない。

 いや、冒険者を辞める手続きを取れば出来ないこともないが、そもそもその手続きに3ヶ月はかかる。

 適当にいなしながら付き合って、3ヶ月我慢をするのが最もコスパが良いと判断したようだった。


 抵抗を諦めたアランが「降参」のポーズを取ったのを見て、マコトはぐっと拳を握る。

 そしてその手を高く振り上げた。


 2人の様子を横目に見ていた警官たちが、生暖かい視線と申し訳程度の拍手を送って歓迎する。


「よし! 頑張るぞ、アラン!」

「えーと、まぁ、ぼちぼちね」

「ぼちぼちじゃダメ」


 嫌そうに応じたアランに、マコトが何故か威張った様子でダメ出しをする。

 完全に調子に乗っていた。


「たくさん人助けしたら、国民栄誉賞とかもらえるかもしれないだろ? そしたら親も友達も一発でギャフンだぜ、ギャフン!」

「ポジティブが過ぎるよ、この右世界ドリーマー」


 意気揚々と街に向かって歩き出したマコトに、苦笑いを浮かべたアランが続く。

 マコトの背中を眺めながら、アランが嘯いた。


「変なリーダーに捕まっちゃったな」

「変なの掴まされたのはこっちだ」


 振り返って、マコトがアランを睨みつけるフリをする。

 そしてすぐに相好を崩し、悪戯めいた表情を浮かべた。


「通報されたくなかったら、せいぜい頑張れよな」


 アランはため息をつきながらも――「はいはい」と気のない返事をする。


 女の子を助けるために囮になろうとしたアランの姿を思い浮かべ、人助けもまんざらではないくせに、と、マコトは一人ほくそ笑んだ。


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勇者パーティーを追放された男を拾ったら、ガチのクズだったので通報しました 岡崎マサムネ @zaki_masa

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