第2話:問う

――この子は天才です。


 そう、医者に告げられ、喜ぶ両親を覚えている。何でも俺の、いわゆる知能指数が普通の人より高いらしい。


 俺は両親に喜んでもらうため、俺は与えられた事を精一杯頑張った。しかし、小学校に上がった頃、家へ父の会社の重役が来て、俺はその人とチェスをやった。勝負は俺の勝ち。しかし、その重役は大人気ないがダダをこね、父に八つ当たりをした。


 俺は、父に謝れと言われたが理解できず、父に反抗した。重役は激怒し、勇み足で帰って行った。そして、その日から両親の俺を見る目が変わった。


 家の中で何か失言すれば記憶されてしまう。外へ出しても人の気持ちが理解できずにきついことを言ってしまう。極めつけには重役の噂を聞いて遊びに来た社長の不倫を暴き、父は会社をクビに、そして、俺は忌み子とされた。


 ダイアモンドと墨が同じ成分でできているように、俺は両親にとってのダイアモンドから墨へと変わった。




                  ◆


 俺は、もうやらなくなった株価のレーダーを一心に見つめていた。

みねりが殺人鬼。いや、まだわからない。しかし、


 自分の才能は自分が知っている。俺は一度見たものは絶対に忘れない。

この十六年間、物心ついた時の事から全て覚えている。


「落ち着け……」

 

 みねりに直接聞けば済む話。だが、そんなふざけた問いに答えてくれるはずがない。



 そうこうしている内に、通学の時間が来た。いつものように、チャイムが鳴った。


「はるきちっ!! 遅刻するよ!!」


 身の毛がよじった。しかし、それをグッと抑え込んで手早く身支度を済ます。


「おはよう……!!」


「お、おう……」


 俺はいつもよりみねりから距離を取って歩いた。

みねりは不審がりながらもいつものように微笑んでいた。


「な、なぁ……みねり? お前って、その……疲れてないか?」


 あのみねりがあんな事するなんて、余程のことがあったに違いない。


「あー、うん最近前期の生徒会との引き継ぎが忙しくてね……荷物運びで腕パンパンだよ……」


「そうか……」


 それらしい返答はなかった。

俺は疑われまいと恐る恐る距離を詰める。


「はるきちこそ、何かあった?」


「何も無いって!!」


 俺は出来る限りの笑顔でみねりに答えた。

生まれた沈黙、みねりは性格こそ真面目だが良く喋るだから沈黙なんてほとんど生まれなかったのに、


「――かーれーん参上!!」


 突然、目の前に陰が降りた。下着が見えることも気にもせず舞い降りる女。今の俺にとってこいつは救世主メシアだった。


「どうした、お二人さん! お暗い顔して!!」


 海苔をバリバリ食いながら詰め寄ってくるかれん。

俺はかれんを利用することにした。


「実はさ、みねりが最近ストレス溜まってるみたいでさ〜」


「な、なにぃ!? それは大変だぁ!!」


 かれんはみねりの周りをうろちょろうろちょろすると、食べかけの海苔を手に持って、


「いる?」

「いらない」



「うーん、そっかぁ、ストレスねぇ……現代社会を生きる私達には欠かせない問題ですな……」


 まるでニュースに出てる評論家のように顎を擦るかれん。


「お前、そうやってるとニュースに出ても違和感なさそうだな……!」


「え! 本当に? ふへへ、私テレビオーデション応募してみようかなぁ……将来は女優に……」


「「芸人のほうが似合うと思う」」


「そんなぁ〜」


 和んできた空気、そして俺は攻める。


「最近、難しいニュースが多いからな、雰囲気だけ出してても喋れるか?」


「うんっ! それなら得意! それは……駄目、ですねぇぇ……って言っとけば良いんでしょう?」


「ははは」


 苦笑を浮かべるみねり。


「それを言うならみねりもニュースとか似合いそうだよな……?」


「え? そう……?」


 俺の言葉にはにかむみねり。


「じゃあ、例えば……この前隣町で起きた殺傷事件についてどう思いますか?」


「――行けないことだと思います」


 みねりから帰ってきた答えは至って普通だった。


「えーっと、僕間違えたこと言ったかな?」


「い、いや別に……」


 みねりの顔を凝視する。その顔には何か腹心を抱えているようなものが無かった。


「――ん……あぁぁぁぁぁっ!! もう良い!! 走ろう!! 私! 走るの大好き! ニュースに出るより走ってたいもん!」


「えっ……ちょっと」


 かれんは米俵を担ぐように俺ら二人を抱えると、


「エベレスト登頂者舐めんなよぉぉぉ!!」


「――本当に行ったのかよぉぉぉ…………!!」




                    ◆


「みなさ~んおはようございます!! いだぁっ!」


「「……」」


 いつもの教室、いつもの光景。だが、俺だけには明らかに違って見えた。

どうするか、さっき俺はかなりダイレクトに聞いた。しかし、それっぽい仕草は無かった。


 俺は、改めて自分の記憶の中にある全てみねりを呼び起こすが、至って普通の男の子だった。あんな事をするような奴じゃない。


「しっかりしろ……」


 動揺で、まともに頭が働いていない。俺は頬を強く叩くと、時々、一番前の席に陣取っているみねりを覗いた。


――昼休み。


 この数時間、みねりの行動を観察してきたが全くおかしな所がなかった。授業を受けて、水を飲み、友達と談笑し、トイレへ行く。至って普通だ。

 

 まさか、こちらの狙いに気がついている? 揺さぶりをかけてみるか。


「みねり」


「どうした、はるきち」


「俺が何を考えているか言ってみて?」


「え?」


 俺はその瞬間を逃さなかった、みねりの脈の動き、視線の泳がせ方、全て頭に叩き込んだ。


「えーっと、ゲームしたい?」


「え?」


「違うの?」


「いや、合ってるけど……」


「やっぱり、だってハルキチ単純だもん」


 俺はまさか直接聞かないだろうという所を裏返して突いた。

なのに、視線も、脈も正常。あったのは一瞬の間だけだった。


「じゃあ、今度は俺が当ててみるよ!!」


「おー? 当てられるかな?」


 どうなっているんだ? 何でこいつは、まさか知らないのか?

いや、そんなはずはない。あの時俺はしっかりと見た。みねりがまるでピエロのような形相で人を殺していたあの姿を。




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君の正体 名前 @mayu12191219

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