第4話 まさかの鉢合わせ
「徹人~、大丈夫?会社、早退したんだって?」
元カノの
「実眞、あの、今は......」
「寒いんだけど、早くドア開けてくれない」
寒い中、実眞を外に立たせておくのは、申し訳無かったけど、ドアを開けると亜純がいるのがバレる。
亜純も、出ようとしていたが、タイミングの悪さに気付き、戸惑っていた。
俺は、どうしたらいいんだ?
ドアを開けると、2人は鉢合わせする。
ここが1階だったら、亜純を窓から追い出したいが、ここは4階で、窓からというのは流石に無理が有る。
「俺、風邪引いているから、実眞に移すかも知れない」
お願いだ~、元カレの風邪なんて移されたくない!って言って、今日は退散してくれよ~。
そのうち、埋め合わせして、より戻せたら戻すから!
「そんな事、何回も有ったし、今さら気にしないから、早く開けて!」
その実眞の語気に負けて、ついドアを開けてしまった俺。
次の瞬間、殺気立った実眞の形相。
「えっ、何?あんな言い訳して、実は別の女を連れ込んでたの?はぁ、もう信じられない!せっかく、徹人の大好きなカツカツ亭のかつ丼テイクアウトして、スタミナつけて元気になってもらおうと思ったのに!」
カツカツ亭のかつ丼、俺の大好物!
けど、今は、キツイだろ......
「あの~、私は......」
亜純が何か言いかけたのも聞かず、ドアを思いっきりパタンと閉めて出て行った実眞。
「ごめんなさい、私がストーカーだって事を説明しようとしたんですが、沢地さん、聞く耳を持たない状態だったので」
「いや......えっ、ストーカーって言おうとしていたのか?」
実眞に対抗するどころか、自分の悪癖を暴露しようとしていた亜純の無欲さに、呆気に取られた。
「はい、そのせいで、草西さんにも沢地さんにもご迷惑かけたので.....」
申し訳なさそうに俯く亜純の顔は、先刻の鬼瓦のような実眞に比べて癒し系にも見え、やはり可愛い。
実眞は多分これからもずっと失っただろうけど、もしかしたら、亜純が残っていて、俺にとっては良かったのかも知れない。
「いや、もう気にしないでいいよ」
「あっ、はい。それじゃあ、お大事にして下さいね」
去って行く後ろ姿は、来た時の重い食材から解放されて、少し足取りが軽くなっていたが、やはり小動物をイメージさせる小柄な子だな。
あんな子にストーキングされていたなんて......
翌朝、噓のように、風邪の悪寒も怠さも喉の痛みも吹っ飛んでいた。
咳も今までよりは、少し緩和されている。
ジンジャー効果なのかな......?
会社へ行くと、どこからか視線を感じて振り向くと、遠くに亜純がいて、俺と目が合い、驚いたような様子だったが微笑みを浮かべていた。
可愛い、制服姿も似合っている。
どうして、今まで、気付けなかったのだろう?
帰り道、いつものように電車から降りてスタスタ歩いていたが、ふと立ち止まって振り返ると、遠くの電柱の陰に慌てて隠れた亜純の姿が有った。
俺が電柱に近付くと、ペコペコと頭を下げて謝って来た。
「ごめんなさい、つい気になって付けてしまって」
「いや、お礼が言いたかったから、一緒に帰ろう」
俺の申し出に、驚いている亜純。
「あっ、でも、私の家は、ホントはこの方向じゃないんですよ~」
「でも、いつもの、日課なんだろ?」
「そうです、いつもの日課です......」
そんな事がきっかけで、俺は亜純と付き合い始めた。
その小動物も顔負けの亜純の可愛らしさに癒され、胃袋もしっかりと掴まれた。
そして、2年後、初対面の彼女のストーキングに引きまくった気持ちも忘れ、亜純が他の男をストーキングしないように、プロポーズした。
亜純は、ストーキングが出来なくなる事を恐れ、その楽しみを優先させて、プロポーズは断られる事も有り得そうだったが、すんなりとOKしてもらえた!
これで、大丈夫だ!
彼女のストーキングの前科を知るのは、俺だけ!
実眞と違って、亜純は俺からは絶対に離れられない!
【 完 】
困った時のジンジャー頼み ゆりえる @yurieru
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