縋る女達
それから泉依子の依存の対象は曼陀羅から私たちに移り変わったのだ。あれほど曼陀羅を狂信していた泉は驚くほど早く信仰を捨てた。
私が部屋にかかっていた幻覚を解いたことも理由の一つには入るだろうが一番の理由は泉が罪の意識から放たれたことだろう。夫を助けられなかったことを泉は酷く悔いていたらしい。
曼陀羅と出会った時のことを泉は語っていた。
「教祖様.....いや、曼陀羅とはあの何日か後に会ったのよ。私は怖くてしばらく家から出られなかったけどある日、電話がかかってきて。祈愛会の勧誘の電話だった。あの時は無性に人の声が聞きたくて電話を取ってしまった」
その日から毎日、泉は曼陀羅と電話をするようになっていた。その話術に引っかかった泉は全財産を曼陀羅に引き渡し、身一つで宿舎に飛び込んだという。
「あの人に化け物の話をしたらいとも容易く信じてくれて。慰められて。縋り付くものが欲しかった」
両親とは結婚の件で疎遠になっていたらしい。泉は本当に孤独だったのだ。そうしてたどり着いたのはカルト宗教。泣きっ面にハチのレベルを超えている。
だからこそ泉は縋り付くものがあればなんでも良いように見えた。縋り付く対象が変わることになんの疑問も感じない。そういう意味では私たちには都合が良かった。
そして私たちも泉依子に依存した——
能力者といえども所詮人間。辛い時には依存する対象が必要だった。繰り返される地獄のような日々に身体も心も悲鳴をあげていた。茉莉も私も限界だ、と口に出すことはしなかったが互いにわかっていた。
泉の笑顔、優しさ、母性。全てに救われていたのだ。長時間の工場勤務の後、私たちは互いを褒めあった。よくやった、私たちは素晴らしい。私らしくはない。でももうそんなことはどうでも良くなっていた。
傷を舐め合う獣。聖母のマントにいだかれる子ら。
泉依子は親友だった。
泉依子は聖母だった。
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