厨二病少女茉莉
「鍵かかってないんで!どーぞ」
「了解!!」
「あの、助っ人って」
硲が顎をしゃくる。勢いよくドアが開かれたのだ。
「ごきげんよう!」
現れたのはブレザーの制服の少女。高い位置のツインテールにぱっちりと開かれた瞳。赤みがかった頬は健康的。なかなか可愛らしい顔立ちをしていた。
少女が私の姿を見て、さっと駆け寄る。
「あなた様はもしや
「あ、あの」
少女にしっかりと手を握られ戸惑う。硲に助け舟を求めたが笑っているばかりで何もしてくれない。
「は、硲さん、助っ人って」
「この子。自己紹介しなよ」
これが助っ人......嘘だろう......
「これはこれは。申し遅れましたな。あたくしは
茉莉、とかいう少女がスカートの裾をひっぱって礼をする。お嬢様言葉と尊大な口調が混ざってわけがわからない。
「あたくしは硲さんに雇われて《影》の討伐をしていましたの。今回、宗教団体「祈愛会」に潜入するということで......あたくしに白羽の矢が立ったわけですの」
思わず硲を二度見する。
「こんなちっちゃい子に《影》の討伐させてたんですか?殺すつもりですか?」
「ちっちゃいって言っても......」
「そうですぞ、月様。あたくしは立派な能力者なのです。歳と強さは関係ないのです!」
いや、そういうことではなくて。
茉莉が上目遣いに私を見て頬を膨らませる。だめだこりゃ。
「流石に14歳は犯罪臭がします。硲さん、助っ人ならもう少しいたでしょう......」
「親になら了承してもらってるし」
「だから、その親って絶対やばいですって」
まぁまぁ、と燕が苦笑いをする。
「茉莉ちゃんはなんの能力が使えるの?お兄さんに教えてもらえるかな」
長身の燕がかがんで茉莉と目を合わせた。茉莉の口角が微妙に上がる。
「いいでしょう。あたくしの能力、見せてあげますわ」
茉莉が両腕を振り上げた。頭上で手を合わせると紫色の霧が渦を巻いた。とんでもない濃度の穢れ。霊が茉莉のそばに寄ってきているのだ。
硲が言いにくそうに口を開く。
「えーと一応、燕の家だから......」
「もう召喚しちゃったんですけど!」
燕ががっくりとうなだれる。相当、強い霊が寄ってきたようだった。私でも霊の姿が目視できてしまう。
燕が椅子から立ち上がって指を組んだ。
『祓-ハラエ-』
さっと清い風が吹き抜けていく。そう認識できた時にはすでに穢れも霊も消えていた。
「申しわけなかったですわね。何せあの子達、あたくしの所に来ることはできても帰ることはできないですもの」
あの子達......って霊のことか。
「茉莉ちゃんは霊を召喚できるってこと?」
「ちゃん、は付けなくてもよろしくってよ。......まぁ霊は召喚できますけど、あたくしの能力で一番大事なのはね」
茉莉が自分の胸をトン、と一叩きする。
「身体の部位に憑依させることですの」
「っていうのは」
「あの子達の力を借りて自らを何倍にも強化できますの。今まで《影》は素手で退治してきましてよ」
白狛の纏とは違うのだろうか。何せ白狛は自分の能力で強化をしているのだ。茉莉は外部から力を借りているのだから、使い勝手は違いそうだ。
この目でその能力を見てみたい、と思ったがここは燕の実家。派手なことをして被害を被るのは燕。やめておこう。
「硲さん、なんとなく茉莉ちゃんの強さは分かったんですけどわざわざ茉莉ちゃんにする必要ありましたかね。どうせなら成人呼んだほうが道徳的にも法律的にも」
月様、だからちゃん付けは、と茉莉が口を挟む。様付けもやめてくれ。
「人材不足。人材不足。それに敵に感づかれにくいでしょ。月ちゃんと茉莉ちゃんのペアなら」
「ペア......ってどういうことですか」
硲が人差し指を突き出した。
「祈愛会共同宿舎は一応、女子宿舎と男子宿舎に分かれてるわけ。燕と白狛は一緒に潜入させる。でも月ちゃん一人じゃ心もとないでしょ。そこで茉莉ちゃんと行動させようと思ったんだけど」
むしろお荷物では。そんな任務になぜ中学生を連れていかなければいけないのだ。
「まぁ俺なりに考えがありまして」
そうは見えないが。ゴタゴタ言ってもどうせ無駄か。人材不足なのは否めない。
「それで、月ちゃんと茉莉ちゃんにずっと一緒にいてもらうために設定決めたんだよね」
「設定と言いますと」
「二人とも当分の間、硲月子ちゃん、硲茉莉ちゃんで。硲姉妹ってことで」
硲の言葉に茉莉が何度も頷く。
「これから月様はあたくしの姉様なのです」
「色々と突っ込みたいんですけどなんで硲が苗字なんですか」
「俺の娘っていう裏設定」
燕と白狛の目が可哀想だと言っている。いくら私の父親がいないから、といっても硲の娘なのは解せぬ。裏設定。あ ほ く さ。
私の睨みに気付いたようで硲がパチクリと瞬きをした。
「まぁ、それはともかく。一週間後には手続きが終わる感じだから、それまでに準備お願いね。一ヶ月くらいは潜入してもらう予定だから」
心の準備ができていないのだが。怪しげな宗教施設に放り込むのに進めるのが急ピッチも良いところ。どうかと思う。
茉莉はすました顔で腕を組んでいる。大丈夫か、この子。
かと思えば燕が真面目な顔をして手を挙げていた。
「パジャマいりますか?」
「祈愛会で支給されるってさ。正直、持ち物はいらない。わかった人ー」
「はぁーい」
どうなることやら.......
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます