祈愛会
夫婦がいなくなったのを確認し、硲が口を開く。
「さぁて、白狛。写真を」
白狛が頷いてスマホを私たちの方へ向けた。一枚の画像。
鬱蒼と茂った木のなかにぽつりとそびえ立つ白い建物。建物に角はなく楕円の形をしていた。
ミスマッチ。違和感しかない風景。
「......これが、売人......吉野の向かった『本部』です」
燕が顔を上げあ、と声を漏らした。
「まさか」
「想像......つきますよね。宗教団体『
「祈愛会......」
「新興宗教だね。そっちの世界じゃなかなか名が知れてるらしい」
硲が祈愛会の公式サイトを見せる。桃色と若草色で彩られたトップ画面。
「愛で手を繋ぎあおう、か」
金文体のキャッチコピー。硲がスクロールした。
「表向きは仏教系の宗教団体。ただ中身は教祖を狂信するいわゆるカルトみたいだね。信者がある程度の金を出せば共同宿舎に住めるんだとか」
怪しい匂いがぷんぷんする。それがどういう世界かは全くわからないがサイトに張り付いた笑顔が全てを表していた。
「で、白狛が尾行してきた売人はこの建物に入ったんだけど。これは共同宿舎も併設された祈愛会奥多摩本部なんだって。祈愛会の拠点ってことだね」
「結局、《影》のバックにいた組織はその祈愛会っていうカルト宗教団体だった......ってことですよね。でも一体なぜ......」
魂を使っての金儲けはわかる。しかし《影》を作り出すメリットが見当たらないのだ。テロ?その辺りの話か?
「それはまだ分からないね。そこで、なんだけど」
もう嫌な予感しかしない。あえて目を伏せるが硲はお構いなしだ。
「潜入捜査するしかないよね」
「はぁ......」
どうせそんなことだろうと。
「祈愛会の宿舎に信者として入ってもらう。祈愛会には能力者が一枚噛んでるみたいだからね。割と大変だと思うよ」
「さらっと言わないでください」
能力者がいる、それだけで難易度は桁違いに上がるというのに。それに、潜入捜査。間違いなく長期間ではないか。
「開を使って監視とかじゃダメなんですか」
「言った通り能力者がいたら開を使ってすぐバレるでしょうが。強力な霊力が発生するから隠れて捜査にはならないの」
ではやはり。うんざりした顔を見せてみせるが硲は動じず。燕はというと瞳をキラキラさせて話に聞き入っている。小学生か。
「まぁまぁ月ちゃん。そんな月ちゃんのために強力な助っ人を呼んだから」
「誰です」
その瞬間インターホンが鳴り響いた。
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