車窓

「どうしたんですか。こんな車用意して」

「いいから乗って乗って!」

「はぁ......」

 早川に言われキャデラックに飛び乗る。私たちの準備を待つつもりはないらしく早川がハンドルをきった。

 無駄に良い乗り心地がかえって不安を湧き上がらせる。

「小野田家の御曹司が乗る車は高級車じゃなくちゃネ。いいでしょ俺の車」

「安西さんが運転してた軽でも良かったんじゃ」

「見られてるかもしれないでしょ」

 硲と同じこと言ってるな。この年の能力者って慎重なんだろうか。

「燕くんその格好似合ってるネ〜金持ちな血筋?感じる。うんうん」

「は、はぁ」

 慣れていない素振りで燕が自分のミルクティー色の髪を撫でつける。

 なんてったって魔女の子孫だ。

「ちなみに今日、俺ノーギャラだから。ボランティアボランティア!初めは硲に誘われて断ったんだけどエミリがあんまりにやりたいって言うから。月ちゃんと喋りたかったんだってサ」

「......安西さんが?」

「友達ができて嬉しがってたんだよ、あの子。月ちゃん仲良くしてやってくれないかな」

 何とも不思議な気分だった。安西は私のことを友達だと思ってくれているのか。ふっと笑みが溢れる。

 この19年間誰かに好意を向けられることはなかったのだ。向けられたのは剥き出しの殺意。ロクでもない人生だった。


「良いですよ。早川さん安西さんの保護者みたいですね」

「そう見える?どっちかっていえば愛人に見えるってよく言われるんだけど」

 自分から墓穴を掘っていくスタイルだろうか。

「一応言っとくけど俺にとってエミリは娘みたいなモンだからネ。エミリにそういう感情持たれた時もあったけど」

「あった......んですか」

 燕があんぐりと口を開ける。

「エミリはまだ若いんだから、って諭したヨ。それだけ」

 あの安西がどんな風だったかは大体想像つく。大真面目に幾度と告白をしてそうだ。一途すぎる。

「今は.....?」

 燕が珍しく身を乗り出した。意外とこういう話好きなのだろうか。

「さぁね。エミリは気持ちの切り替えが早いからネ。もう他の相手を探してるかもしれない。まず落ち込んではないでしょ」

「硲さん結婚してます?」

 攻めるな燕。

「バツ1」

「ほえ〜」

「ほえ〜ってなんだ。ほえ〜って」

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