妙計交錯

「月ちゃん、生きてる?」

 硲から電話が来たのは休日を満喫しようと決意した日の翌日。なぜこうもタイミングが悪いのか。私は箱買いしたガリガリ君を一本取り出してかじり始めた。コーラ味。定番である。

「生きてますよ。例の件ですか?」

「そうそう。細かいことが決まったから伝えようと思って。まず何をするかについてなんだけど、魂の取引を実際してみることになったんだ」

「魂って高いんでしょう。それにどうせ偽物なのに?」

「お金心配してるの?そこはダイジョーブ!小野田グループがこっちにはついてるからね」

「小野田グループ......ですか!」

 名前は聞いたことがある。日本でも有数のとんでもなく規模の大きいグループ。小野田家という一族が経営しており日本のロスチャイルド家と呼ばれていたはずだ。詳しくは知らないが凄いのはよくわかる。

「小野田家は代々能力を受け継いでいる家でね、この世界の均衡が崩れないよういつも裏で動いていたんだ。今まで能力者の粛清にかかる資金を調達してくれていた。今回の《影》の出資者も小野田家だったわけだ。魂を買っちゃおう、っていうのも御子息から出た意見だったらしいし」

 さすが金持ち。200万のガラクタを買うことに躊躇はないようだ。

「それで、取引自体は燕に任すことにしている。それも小野田家の人間と偽ってね。」

「大丈夫ですか、それ。わざわざ小野田家にする必要もないんじゃ。しかも燕くん?」

「いい感じに世間知らず感出ていいんじゃない?」

 地味に燕ディスらないでください、と言いたいところだったが私も人のことは言えないのでグッと押し黙る。

「っていうか硲さんが直接取引すればいいと思うんですけど」

「俺ってこれでも業界じゃ有名人じゃん。結構顔割れちゃってるから能力者としては無名の燕を使う方が良いでしょ」

 確かに。あの無駄に目立つ、縄文ギリシャ顔は一度見たら忘れられないだろう。

「それで、私と白狛くんは何をするんですか?」

「月ちゃんは燕のお付きの者的な感じ。燕を助けてやりな。で、白狛はみてのとおーりあんななのでコッソリ見て売人に色々仕掛ける。取り引きが終わったら売人の尾行。それも白狛に任せる」

それだけ聞くと私の仕事は少ないように思える。その方が良い。

「了解しました。場所は?」

「オルビス・ヴィラの4階。渋谷の小野田家の所有するビルだね」

「決行日は?」

「明日」

「は?」

「そーだそーだ。行く前に俺ん所寄ってね!お付きの者らしい衣装用意するから」

 私が何かを言う時間も与えず硲が電話を切った。言いたいことは山ほどある。明日、硲を睨んだ方が良いだろうか。

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